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昼間、井内さんを案内していたときのことが思い出される。小屋の中は狭い。この場所で二人で寝ていると僕は説明した。明言した。他意はなかった。僕としては、ただありのままの事実を伝えただけ。しかし、今になって考えてみれば、淫らなイメージを喚起してもおかしくない発言だった、と思う。高校一年生という年齢を考えれば、むしろ喚起して当然。井内さんは普通の範疇に属する人だから、例外ではないはずだ。
例えば今、井内さんがまだ眠っていないとして、今ごろ僕たちが淫らなことをしているのではないかと想像を巡らせるほど、僕たちの暮らしが彼女にインパクトを与えたかは定かではないが――。
僕は今、井内さんが僕たちの様子をリアルタイムで覗き見ていたならば、井内さんが思わず息を呑み、ひとときも目が離せなくなるような、全神経を傾けて関心を注ぎ続けざるを得なくなるような、猥褻極まる肉体的やりとりを九条さんと交わしたい、という欲望を抱いている。
いつの間にか僕の下半身は、形容するのも憚られる、醜悪な様相を呈している。下着の内側が窮屈なので、見ずとも、触れずとも、その事実を把握できた。
寝返りを打ち、横を向いていた体を仰向けにして、目だけで九条さんを窺う。眠ってはいないが、眠りに向かうことに専心しているように見える。僕が目を覚ましていることには気づいているだろうか? 肉欲に半ば心を支配されていることには? 確かなことはなにも分からない。九条さんは、寝る態勢に入っても心が読めない人だ。
「遠藤くん、眠れないの?」
視線を感じたらしく、声をかけてきた。僕に背を向けた姿勢のままだ。
「うん、眠れない。寝苦しいとか、そういうことではないんだけど、結果的に眠れていないっていうか」
「もしかして、井内さんのことが関係している?」
少し考えてみる。その件も影響していないわけではないと思うが、第一はやはり性欲だろう。あまり関係ないかも、と答える。
直後、気がつく。九条さんが眠れないでいるのは、もしかすると僕と同じ原因からなのでは?
「遠藤くん、したいの?」
「どちらかというと――うん」
「前も言ったように、私自身はしてもいいと思っているから」
衣擦れの音が微かにして、静寂が僕たちの世界の支配者となる。
この時点で、僕の性欲は萎えていた。今の九条さんはその気がなさそうだと、言葉を交わしたことによって察したからだ。
九条さんは、キスやそれ以上のことができるような精神状態ではない。その原因は、将来に対する漠然とした不安なのではないか、と僕は想像する。
僕たちの逃避行の未来は予知できない、と彼女は言っていた。そのことと関係があるのか否かは、なんとも言えない。しかし、九条さんの心がそのような状態なのであれば、僕がとるべき行動は自ずと決まってくる。
「九条さん。僕は肉体的にじゃなくて、君の不安を取り除くという形で、君と関わり合いたいと思ってる」
返事はない。身じろぎすらしない。ただ、僕の発言に意識を傾けてくれているのだと、雰囲気から伝わってくる。
「今、僕にできることはない? あるなら遠慮せずに言ってよ」
「遠藤くんにできること、か」
独り言に等しい、隣り合っていたからこそ聞こえたというような、微かな呟き。たっぷりと間を置いて返答が述べられた。
「特にない、かな。もう寝た方がいいと思う」
「……分かった」
小屋の中は静寂に満たされた。
寝よう。仕切り直して、また新たな一日を生きよう。
明日にも訪れるかもしれない、九条さんが助けを必要とする瞬間に備えるためにも。
例えば今、井内さんがまだ眠っていないとして、今ごろ僕たちが淫らなことをしているのではないかと想像を巡らせるほど、僕たちの暮らしが彼女にインパクトを与えたかは定かではないが――。
僕は今、井内さんが僕たちの様子をリアルタイムで覗き見ていたならば、井内さんが思わず息を呑み、ひとときも目が離せなくなるような、全神経を傾けて関心を注ぎ続けざるを得なくなるような、猥褻極まる肉体的やりとりを九条さんと交わしたい、という欲望を抱いている。
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寝返りを打ち、横を向いていた体を仰向けにして、目だけで九条さんを窺う。眠ってはいないが、眠りに向かうことに専心しているように見える。僕が目を覚ましていることには気づいているだろうか? 肉欲に半ば心を支配されていることには? 確かなことはなにも分からない。九条さんは、寝る態勢に入っても心が読めない人だ。
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「うん、眠れない。寝苦しいとか、そういうことではないんだけど、結果的に眠れていないっていうか」
「もしかして、井内さんのことが関係している?」
少し考えてみる。その件も影響していないわけではないと思うが、第一はやはり性欲だろう。あまり関係ないかも、と答える。
直後、気がつく。九条さんが眠れないでいるのは、もしかすると僕と同じ原因からなのでは?
「遠藤くん、したいの?」
「どちらかというと――うん」
「前も言ったように、私自身はしてもいいと思っているから」
衣擦れの音が微かにして、静寂が僕たちの世界の支配者となる。
この時点で、僕の性欲は萎えていた。今の九条さんはその気がなさそうだと、言葉を交わしたことによって察したからだ。
九条さんは、キスやそれ以上のことができるような精神状態ではない。その原因は、将来に対する漠然とした不安なのではないか、と僕は想像する。
僕たちの逃避行の未来は予知できない、と彼女は言っていた。そのことと関係があるのか否かは、なんとも言えない。しかし、九条さんの心がそのような状態なのであれば、僕がとるべき行動は自ずと決まってくる。
「九条さん。僕は肉体的にじゃなくて、君の不安を取り除くという形で、君と関わり合いたいと思ってる」
返事はない。身じろぎすらしない。ただ、僕の発言に意識を傾けてくれているのだと、雰囲気から伝わってくる。
「今、僕にできることはない? あるなら遠慮せずに言ってよ」
「遠藤くんにできること、か」
独り言に等しい、隣り合っていたからこそ聞こえたというような、微かな呟き。たっぷりと間を置いて返答が述べられた。
「特にない、かな。もう寝た方がいいと思う」
「……分かった」
小屋の中は静寂に満たされた。
寝よう。仕切り直して、また新たな一日を生きよう。
明日にも訪れるかもしれない、九条さんが助けを必要とする瞬間に備えるためにも。
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