1 / 200
クレープ
しおりを挟む
「お嬢ちゃん、聞いて驚くなよ。俺はなぁ、今からウンコするんだぜ。ウンコだぜ、ウンコ。どうだい、凄いだろう?」
大通りの歩道に設置されたベンチに腰かけ、いちごクレープを食べていたアルトは、聞き覚えのない声に顔を上げた。目の前に立っていたのは、昔はやんちゃしていました、といった風采の壮年の男性。口元に薄ら笑いを浮かべ、上体をひっきりなしに左右に揺らしている。
「ウンコだぜ、ウンコ。凄いだろう?」
ウゼえ、とアルトは思った。人の食事中に排泄物の話題を持ち出す男の神経が信じられなかった。しかしながら、関わり合うと面倒なことになると思ったので、黙ってそっぽを向いていた。
男性は薄く笑った表情のまま、何か言ってほしそうにアルトを見つめていたが、やがて顔を背け、人通りの多い方角に向かって猛然と走り去っていった。
やれやれと思い、クレープを口にしようとした矢先、近くで甲高い悲鳴が上がった。声の発生源に目を向けると、群衆が四方八方に逃げ惑っていた。先程の壮年の男性が、呵々大笑しながら両手に持った包丁を振り回し、逃げる人々を追いかけている。道には血を流して倒れ、身じろぎ一つしない人が何人もいる。
男性が言う「ウンコをする」とは、「人を殺す」という意味だったのだ、とアルトは理解した。
男性は犯行の直前、アルトに対して犯行を仄めかした。そしてアルトが反応を示すのを待っていた。対応次第では、凶行は未然に防げたかもしれない。そう思うと、罪悪感と悔恨の念が込み上げてくる。
――でも、そんな独自性溢れる隠語なんて解読できるわけないし、仕方ないよね。
アルトはすぐさま気を取り直し、逃げ回る人々の阿鼻叫喚の声を遠くに聞きながら、食べかけのクレープをかじった。食い込んだ歯に圧迫されてホイップクリームが押し出され、卵色の生地の外に溢れ出した。
大通りの歩道に設置されたベンチに腰かけ、いちごクレープを食べていたアルトは、聞き覚えのない声に顔を上げた。目の前に立っていたのは、昔はやんちゃしていました、といった風采の壮年の男性。口元に薄ら笑いを浮かべ、上体をひっきりなしに左右に揺らしている。
「ウンコだぜ、ウンコ。凄いだろう?」
ウゼえ、とアルトは思った。人の食事中に排泄物の話題を持ち出す男の神経が信じられなかった。しかしながら、関わり合うと面倒なことになると思ったので、黙ってそっぽを向いていた。
男性は薄く笑った表情のまま、何か言ってほしそうにアルトを見つめていたが、やがて顔を背け、人通りの多い方角に向かって猛然と走り去っていった。
やれやれと思い、クレープを口にしようとした矢先、近くで甲高い悲鳴が上がった。声の発生源に目を向けると、群衆が四方八方に逃げ惑っていた。先程の壮年の男性が、呵々大笑しながら両手に持った包丁を振り回し、逃げる人々を追いかけている。道には血を流して倒れ、身じろぎ一つしない人が何人もいる。
男性が言う「ウンコをする」とは、「人を殺す」という意味だったのだ、とアルトは理解した。
男性は犯行の直前、アルトに対して犯行を仄めかした。そしてアルトが反応を示すのを待っていた。対応次第では、凶行は未然に防げたかもしれない。そう思うと、罪悪感と悔恨の念が込み上げてくる。
――でも、そんな独自性溢れる隠語なんて解読できるわけないし、仕方ないよね。
アルトはすぐさま気を取り直し、逃げ回る人々の阿鼻叫喚の声を遠くに聞きながら、食べかけのクレープをかじった。食い込んだ歯に圧迫されてホイップクリームが押し出され、卵色の生地の外に溢れ出した。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる