2 / 200
須藤さんの駆除
しおりを挟む
自宅前の空き地に四年ぶりに須藤さんが大量発生した。何か悪さをする、というわけではないのだが、「周辺の景観を損ねる」と近所の人から苦情が来たので、兄と一緒に駆除することになった。
空き地には、四十過ぎくらいの、肌の黒い男性――須藤さんが三十人ほどいた。須藤さんは姿見の前でおどけたポーズを取ったり、アコースティックギターを弾いたり、カレーライスを食べたり、『進撃の巨人』を読んだりしている。
「どうして、須藤さんは色黒なの」
四年前にも抱いた疑問を、七歳上の聡明な兄にぶつける。
「サーフィンが趣味だからさ。ほら、御覧」
兄が指差す方を見ると、陸地なのにサーフボードに乗り、両手を水平に広げ、バランスを取っている須藤さんがいた。
兄は陸サーファーの須藤さんに歩み寄った。上着の胸ポケットから小袋を取り出し、中に入っている塩をつまみ、須藤さんに振りかける。たちまち須藤さんはしゅわしゅわと音を立てて溶け始め、あっと言う間に跡形もなく消えてしまった。
仲間が駆除されたのを見て、他の須藤さんたちは空き地の中を逃げ惑い始めた。兄は小袋から塩をつまみ出しては浴びせかけ、矢継ぎ早に須藤さんを消滅させていく。
いくら須藤さんとはいえ、ちょっと可哀相だな――。
「俺だって殺したくはないが、須藤さんが増えすぎるのは、人間にとっては勿論、須藤さんにとっても好ましくないことだからね」
まるで僕の心の声が聞こえたみたいに、せっせと塩を撒きながら兄は言う。
「残酷なようだけど、駆除するのが一番だよ」
正論だと思った。駆除される須藤さんが可哀相だと思う気持ちが消えたわけではない。消えたわけでは決してないのだけど――。
僕はジーパンの尻ポケットから小袋を取り出し、近くにいた須藤さんを目がけて無言で塩を投げつけた。その時には、生き残っている須藤さんはもう五人しかいなかった。
空き地には、四十過ぎくらいの、肌の黒い男性――須藤さんが三十人ほどいた。須藤さんは姿見の前でおどけたポーズを取ったり、アコースティックギターを弾いたり、カレーライスを食べたり、『進撃の巨人』を読んだりしている。
「どうして、須藤さんは色黒なの」
四年前にも抱いた疑問を、七歳上の聡明な兄にぶつける。
「サーフィンが趣味だからさ。ほら、御覧」
兄が指差す方を見ると、陸地なのにサーフボードに乗り、両手を水平に広げ、バランスを取っている須藤さんがいた。
兄は陸サーファーの須藤さんに歩み寄った。上着の胸ポケットから小袋を取り出し、中に入っている塩をつまみ、須藤さんに振りかける。たちまち須藤さんはしゅわしゅわと音を立てて溶け始め、あっと言う間に跡形もなく消えてしまった。
仲間が駆除されたのを見て、他の須藤さんたちは空き地の中を逃げ惑い始めた。兄は小袋から塩をつまみ出しては浴びせかけ、矢継ぎ早に須藤さんを消滅させていく。
いくら須藤さんとはいえ、ちょっと可哀相だな――。
「俺だって殺したくはないが、須藤さんが増えすぎるのは、人間にとっては勿論、須藤さんにとっても好ましくないことだからね」
まるで僕の心の声が聞こえたみたいに、せっせと塩を撒きながら兄は言う。
「残酷なようだけど、駆除するのが一番だよ」
正論だと思った。駆除される須藤さんが可哀相だと思う気持ちが消えたわけではない。消えたわけでは決してないのだけど――。
僕はジーパンの尻ポケットから小袋を取り出し、近くにいた須藤さんを目がけて無言で塩を投げつけた。その時には、生き残っている須藤さんはもう五人しかいなかった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる