塵埃抄

阿波野治

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報復

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「歴史を直視する会」の会合を終え、会員のみんなと蕎麦屋で飯を食っていると、私の肩をつつく者がいる。隣で天ぷら蕎麦をすすっていた会員番号四・『南京大虐殺』だ。『南京大虐殺』は、カウンターの端でかけ蕎麦を食っている二人組の白人男性を顎で指し、あいつらが英語で俺らの悪口を言っていたぜ、と私に告げた。麺類を音を立ててすするのは野蛮人がすることだ、という意味の発言を彼らはしたらしい。
 あらゆる国・地域・社会固有の文化は無条件に尊重されるべきであり、他の文化と比較して優劣をつけるなど言語道断だ。白人二人組の発言は断じて許容できない。
 私は『南京大虐殺』に耳打ちをした。彼はにやりと笑い、私の言葉を伝えるべく、店にいる他の会員のもとへ走った。会員一同は、自らが注文した丼と割り箸を手に、続々と白人二人組のもとに集まり、彼らを取り囲んだ。二人組は困惑半分怯え半分、といった表情で私たちの顔を見比べている。
 私が指を鳴らしたのを合図に、私たちは一斉に音を立てて蕎麦をすすり始めた。二人の白人は耳を塞ぎ、苦悶の表情を浮かべ、呻き声を上げながら身悶えする。やがて床にくずおれ、微動だにしなくなった。私たちはハイタッチを交わし、会計を済ませて店を後にした。
 翌日の朝刊で、私たちが住む地域にある神社が武装した二人組の男に襲撃され、多数の日本人参拝客が死傷したことを私は知った。目撃者の証言によると、男は二人とも白人だったらしい。昨日の蕎麦屋の白人二人組が、私たちに酷い目に遭わされた報復として襲ったのだ。私たちも大人気なかったが、彼らのやり方はあまりにも残虐すぎる。
 私は駐日アメリカ大使館に抗議の電話をかけた。話を聞き終えると、職員の男性は溜息をついた。
「あんたたち日本人は、白人はみなアメリカ人だと思っているのかい?」
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