鏖の季節

阿波野治

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 自転車を漕ぎながらだと思案に集中できない。そう考えて押しながら歩いてみたが、大同小異だった。
 再びサドルに跨ってペダルを漕ぐ。しゃにむに両脚を動かしたので、我が家に到着するまではあっという間だった。

 悩みごとがあるときはしばしばそうするように、制服を脱がずにベッドに仰向けに横たわり、物思いに沈む。
 嗅ぎ慣れたシーツの匂い。見慣れたクリーム色の天井。聞き覚えのある犬の吠え声。それらの情報すべてが、集中力を高める後押しをする。
 復讐の実行を口頭で否定したにもかかわらず、トモノリがわざわざ鉈を持ち出した意味は?

 真理愛の意識はしばし、不明瞭な景色が広がる空間内をさ迷った。そうする中で、でたらめに線を引いていくうちに一枚の絵が浮かび上がってくるように、やがて答えらしきものがおぼろげに見えてきた。彼女はそれの解像度を上げることに専心した。
 やがて、トモノリは真理愛の狂気的で暴力的な側面が見たかったのではないか、という可能性を無視できなくなった。
 つまり彼は、狂気や暴力を好む性質を内に秘めている……?

「暴力なんて馬鹿げている」という発言に対して寂しそうな表情を見せたのは、欲していたものと接することが叶わなかったうえに、趣味嗜好を真っ向から否定されたから。そう解釈すれば辻褄は合う。
 一応の辻褄は合うが――果たして、真実なのか。
 その謎について考えてみたものの、答えは遠く、気力は早々に萎えてしまった。
 真実か否かは定かではないが、仮に推理が正しかったとすれば――。

「期待に応えられなくて、申し訳なかったな……」

「暴力は馬鹿げている」と結論する前に、そのことを察するべきだった。暴力は嫌悪の対象であり、復讐の意思は現時点ではない。その結論は不動なのだとしても、トモノリの内なる期待に沿って会話を展開させるべきだった。きっと、それが上手な人付き合いというものだから。

 同時に、そんな人間と二人きりで過ごしたのは危うかったな、とも思う。
 すっかり忘れていたが、トモノリは前科があると噂されている人物だ。小屋の中には、鉈以外にも凶器になり得る道具が多数保管されていると推察される。小屋の周囲には逃げ込める場所がないし、助けてくれる人間や車は通らない。客観的に見れば、無謀以外のなにものでもなかった。

 逆にいえば、無謀だとも危険だとも認識していなかったからこそ、真理愛はトモノリが暮らす小屋まで自転車を走らせた。樹音たちにいじめられている事実を打ち明けた。
 ようするに、彼のことをある程度信頼していた。
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