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二人きりでいるあいだ、彼女はトモノリにネガティブな感情は抱かなかった。小屋から鉈を持ち出し、手にとって想像してみろと要求されたときは驚いたが、束の間の心の揺らぎでしかなかった。
二度の交流を振り返った限り、トモノリは善良な男性だ。めったなことでは漣すら立たない無表情など、変人のレッテルを貼られてもおかしくない要素を持った人間なのは間違いないにせよ。
トモノリのポジティブな一面を直視すればするほど、暴力と狂気を愛する心を内に秘めているという推測は間違っている気がしてくる。
それとも、狂気と善性は両立し得るものなのだろうか?
トモノリが暴力と狂気に接することを望んでいるのだとしたら、真理愛は期待に応えられそうにない。
もっとも、公言を憚られるような性癖を抱えていること、それ自体に関してはなんとも思わない。
変人? 狂人? だから、どうしたというの? トモノリはもともと変人で狂人だと噂されていたでしょう?
「……知りたい」
彼にまつわる謎を少しでも解き明かしたい。彼のことをもっと知りたい。
真理愛はおもむろに体を起こし、遅まきながら制服を脱ぎはじめる。
明日もトモノリに会いに行こう。なにがあっても、絶対に。
大きくめくれた制服のスカートから垣間見えた黒い下着が脳裏から離れない。膨らんだ股間を意識し、隠蔽するのに神経をすり減らしたせいで、森嶋隼人は普段の二倍も三倍も疲弊してしまった。
帰宅し、南向きの自室のドアを内側から施錠して、環境が整った。黒いショーツに包まれた尻に自分自身を擦りつけたり、頬ずりをしたりする映像に合わせて、現実の自分自身に規則的な摩擦を加えているうちに、あっという間に果てた。
「……ふう」
処理するべきものをティッシュで処理し、まとうべき衣類をまとう。宿題を夕食までに済ませたいし、推している女性配信者のSNSをチェックしておきたい。
やりたいこと、やるべきことは複数思い浮かぶ。うらはらに、体は動かない。物憂かった。自慰行為直後に襲われる特有の症状とはまた違った、物憂さ。
漆黒のショーツに替わって、ショーツを穿いている張本人の顔を脳内スクリーンに映し出す。
お世辞にも美人とはいえない。メイクをしていないのはまあ許容できるとしても、常に暗鬱とした表情をたたえているのは、陰気くさくていかがなものか。
後者こそが、湯田真理愛が川真田樹音たちからいじめられている最大の要因だと、隼人は分析している。記憶が正しいならば、真理愛はいじめられる前から暗い顔をしている時間が長かった。
暗さという要素は、明るい世界で呼吸している人間を無性にいらつかせるものだと隼人は知っている。自身が太陽の国の住人だからではなく、暗く淀んだ世界に生きている人間だからこそ。闇は闇でも、夜目すら効かない暗黒ではなく、光が降り注ぐ領域に隣接した薄暗がりで生きているからこそ。
真理愛は樹音などと比べれば、女性的な魅力という点では大きく劣っている。中学二年生、思春期真っ只中の男子にとって、このマイナスは大きい。
それらの欠点をものともせずに、湯田真理愛が隼人の心を捉えて放さない要因は、なんなんだ?
二度の交流を振り返った限り、トモノリは善良な男性だ。めったなことでは漣すら立たない無表情など、変人のレッテルを貼られてもおかしくない要素を持った人間なのは間違いないにせよ。
トモノリのポジティブな一面を直視すればするほど、暴力と狂気を愛する心を内に秘めているという推測は間違っている気がしてくる。
それとも、狂気と善性は両立し得るものなのだろうか?
トモノリが暴力と狂気に接することを望んでいるのだとしたら、真理愛は期待に応えられそうにない。
もっとも、公言を憚られるような性癖を抱えていること、それ自体に関してはなんとも思わない。
変人? 狂人? だから、どうしたというの? トモノリはもともと変人で狂人だと噂されていたでしょう?
「……知りたい」
彼にまつわる謎を少しでも解き明かしたい。彼のことをもっと知りたい。
真理愛はおもむろに体を起こし、遅まきながら制服を脱ぎはじめる。
明日もトモノリに会いに行こう。なにがあっても、絶対に。
大きくめくれた制服のスカートから垣間見えた黒い下着が脳裏から離れない。膨らんだ股間を意識し、隠蔽するのに神経をすり減らしたせいで、森嶋隼人は普段の二倍も三倍も疲弊してしまった。
帰宅し、南向きの自室のドアを内側から施錠して、環境が整った。黒いショーツに包まれた尻に自分自身を擦りつけたり、頬ずりをしたりする映像に合わせて、現実の自分自身に規則的な摩擦を加えているうちに、あっという間に果てた。
「……ふう」
処理するべきものをティッシュで処理し、まとうべき衣類をまとう。宿題を夕食までに済ませたいし、推している女性配信者のSNSをチェックしておきたい。
やりたいこと、やるべきことは複数思い浮かぶ。うらはらに、体は動かない。物憂かった。自慰行為直後に襲われる特有の症状とはまた違った、物憂さ。
漆黒のショーツに替わって、ショーツを穿いている張本人の顔を脳内スクリーンに映し出す。
お世辞にも美人とはいえない。メイクをしていないのはまあ許容できるとしても、常に暗鬱とした表情をたたえているのは、陰気くさくていかがなものか。
後者こそが、湯田真理愛が川真田樹音たちからいじめられている最大の要因だと、隼人は分析している。記憶が正しいならば、真理愛はいじめられる前から暗い顔をしている時間が長かった。
暗さという要素は、明るい世界で呼吸している人間を無性にいらつかせるものだと隼人は知っている。自身が太陽の国の住人だからではなく、暗く淀んだ世界に生きている人間だからこそ。闇は闇でも、夜目すら効かない暗黒ではなく、光が降り注ぐ領域に隣接した薄暗がりで生きているからこそ。
真理愛は樹音などと比べれば、女性的な魅力という点では大きく劣っている。中学二年生、思春期真っ只中の男子にとって、このマイナスは大きい。
それらの欠点をものともせずに、湯田真理愛が隼人の心を捉えて放さない要因は、なんなんだ?
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