23 / 107
23
しおりを挟む
「とりあえず、座ろうか」
昨日座るのに利用した木箱が、昨日と同じ場所に置かれたままになっている。真理愛は俊敏に動き、昨日トモノリが座ったほうの箱に腰を下ろした。その隣に、数秒遅れて彼も腰かける。
「湯田さんは多分気がついていると思うけど、僕はあまり自分のことを話すのが好きではないし、得意でもなくて」
「寡黙な印象はありましたけど、そうだったんですね。どうしてですか?」
「それを説明するのも、自分について話すのと同じだから、あまり得意ではないけど」
口角に苦笑がにじみ、一瞬で引っ込む。
「僕は人間が苦手で、嫌いで、ずっと孤独に生きてきたからね。話す内容を問わず、口頭でコミュニケーションをとることに苦手意識があって、中でも自分のことを話すのは特に抵抗がある、という感じかな」
「でも、わたしとは普通に話せていますよね」
「そうだね。多分、君を広い意味で同類だと見なしているからじゃないかな」
「同類?」
「君はクラスメイトから、自転車のタイヤを故意にパンクさせられただろう。ようするに被害者だ。自分と同じ弱い人間が相手であれば、心をさらけ出しても支障はないと考えたんじゃないかな。君に失礼な発言になってしまうけど」
「失礼じゃないですよ。全然失礼なんかじゃない」
むしろ共通項を持てたことがうれしい。失礼かもしれないと気づかってくれる優しさ、それもうれしい。
もっともっと、トモノリのことが知りたい。トモノリと話をして、訊き出したいし、彼のほうからも話してほしい。
「じゃあ、昨日わたしがいじめのことを話したから、そのお礼として今日はトモノリさんが話す、というのはだめですか? ほら、わたし、言いにくいことを思い切って言ったじゃないですか。特定の個人が憎らしいとか、復讐したいとか。……はっきりとは口にしなかったけど、殺したいとか。わたしが勝手に語っただけだから、図々しいお願いかもしれないけど」
「なるほどね」
トモノリは深く息を吐いた。小屋の外壁に背中を預けて腕組みをしたが、すぐにほどき、十秒もしないうちに背中も離す。一人合点したようにうなずき、真理愛と目を合わせる。
「君の意見が正しいと思う。好き好んで孤独を生きてきた人間だけど、そんな僕に好意を持って近づいてくれたんだから、少しでもお返しをしないといけない。そう込み入った話ではないけど、他人に身の上話をまともにした経験がないから、まとまりのない、冗長な語りになってしまうかもしれない」
そう断ったうえで、トモノリは静かに話しはじめた。
昨日座るのに利用した木箱が、昨日と同じ場所に置かれたままになっている。真理愛は俊敏に動き、昨日トモノリが座ったほうの箱に腰を下ろした。その隣に、数秒遅れて彼も腰かける。
「湯田さんは多分気がついていると思うけど、僕はあまり自分のことを話すのが好きではないし、得意でもなくて」
「寡黙な印象はありましたけど、そうだったんですね。どうしてですか?」
「それを説明するのも、自分について話すのと同じだから、あまり得意ではないけど」
口角に苦笑がにじみ、一瞬で引っ込む。
「僕は人間が苦手で、嫌いで、ずっと孤独に生きてきたからね。話す内容を問わず、口頭でコミュニケーションをとることに苦手意識があって、中でも自分のことを話すのは特に抵抗がある、という感じかな」
「でも、わたしとは普通に話せていますよね」
「そうだね。多分、君を広い意味で同類だと見なしているからじゃないかな」
「同類?」
「君はクラスメイトから、自転車のタイヤを故意にパンクさせられただろう。ようするに被害者だ。自分と同じ弱い人間が相手であれば、心をさらけ出しても支障はないと考えたんじゃないかな。君に失礼な発言になってしまうけど」
「失礼じゃないですよ。全然失礼なんかじゃない」
むしろ共通項を持てたことがうれしい。失礼かもしれないと気づかってくれる優しさ、それもうれしい。
もっともっと、トモノリのことが知りたい。トモノリと話をして、訊き出したいし、彼のほうからも話してほしい。
「じゃあ、昨日わたしがいじめのことを話したから、そのお礼として今日はトモノリさんが話す、というのはだめですか? ほら、わたし、言いにくいことを思い切って言ったじゃないですか。特定の個人が憎らしいとか、復讐したいとか。……はっきりとは口にしなかったけど、殺したいとか。わたしが勝手に語っただけだから、図々しいお願いかもしれないけど」
「なるほどね」
トモノリは深く息を吐いた。小屋の外壁に背中を預けて腕組みをしたが、すぐにほどき、十秒もしないうちに背中も離す。一人合点したようにうなずき、真理愛と目を合わせる。
「君の意見が正しいと思う。好き好んで孤独を生きてきた人間だけど、そんな僕に好意を持って近づいてくれたんだから、少しでもお返しをしないといけない。そう込み入った話ではないけど、他人に身の上話をまともにした経験がないから、まとまりのない、冗長な語りになってしまうかもしれない」
そう断ったうえで、トモノリは静かに話しはじめた。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる