鏖の季節

阿波野治

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 食べはじめてからも、真理愛の緊張状態は持続している。話をどう進めればいいかが掴めていないからだ。玲奈が「いじめられているいじめっ子」という特殊な立場の人間だからというよりも、真理愛が人付き合いに精通していないのが大きかった。少しの失敗も許されないような気がして、プレッシャーは決して小さくなかったが、

「手作りのお弁当が羨ましいって話している子は多いけど、必ずしもそうじゃないんじゃないかなって思うな」
 それでも真理愛は自ら口火を切った。弁当箱の中から、おかずの一つである筑前煮のシイタケを箸でつまみ上げる。

「ワンパターンに陥りがちだし、残り物ばかりになるときもあるし。この煮物なんて、二日連続で入っているからね。忙しい中作ってもらっているのはわかっているから、もちろん面と向かって文句は言わないし、むしろ感謝しているんだけど」
 シイタケを口にそっと放り込む。食べものの話題なら話を繋げやすいだろう。そう考えての選択だったのだが、玲奈は応じてくれるだろうか。横目にうかがう勇気すらも奮い立たせられず、沈黙の中、音を立てないように咀嚼に専念する。

「手抜きなのがばればれだと、たしかに萎えるよね」
 シイタケを飲み下したのに前後して、玲奈がやっとのことで言葉を返してきた。涙の名残が感じられる声の響きだが、口調そのものはしっかりと地に足がついている。

「私、基本的に昼食はコンビニで買うんだけど、たまに母親が弁当を作ってくれて。頻度はそう高くないんだから、気合いを入れて作ってくれてもいいのに、平気で手を抜くから。うちのお母さん、そういうずるいところがあって。そのDNAを受け継いだ私が言える立場じゃないけど、あまりいい気分じゃないよ」
 玲奈のほうを向くと、たまごサンドの封を開けながら苦笑している。

 真っ白な鋭角をかじったのを機に、玲奈は話しはじめた。選ばれた話題は、食について。好きなおかずや好みの味についてなど、総じて他愛もない。

「酢豚のパイナップルって、あり得なくない? ちゃんと科学的な理由があるんだろうけど、別になくても成立する料理だからね」
「あのコンビニの弁当、上げ底してあるから買わないほうがいいよ。サンドウィッチとかも中身がスカスカだし」
「夜遅くに食べるジャンクフォードって、なんであんなに美味しいんだろうね。太るってわかっていても食べちゃうよ」

 悪くいえばくだらない、よく言えば気楽に交わせる話題は、だからこそ連綿と続いていく。その終わりの見えない感じが、真理愛には無性に楽しくて、口元が緩むのを抑えきれなかった。
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