鏖の季節

阿波野治

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 樹音はしゃべればしゃべるほど、玲奈の指摘が正しいという確信を深めているらしく、顔つきが次第に険しくなる。それは取り巻きたちも同じらしく、似たような表情の変化が観測できる。
 気がつけば、真理愛たちを見据える六つの顔はみな、親の敵を睨むかのように険しい。

「湯田を野放しにしておくのは危険だな。なんていうか、まずいことになりそうな気がする。いや、絶対にまずいことになる」
 樹音はきっぱりと断言した。そして一同の顔を素早く見回し、命じた。
「縛れ。身動きをとれなくして、どこかの部屋に監禁しておこう。さあ、早く!」

 命じられた取り巻きたちは、戸惑ったように互いに顔を見合わせる。それを見た樹音が「早く!」と語気を荒らげると、先陣を切って大柄な高宮が歩み寄ってきた。真理愛が逃げようと立ち上がると、ダッシュして詰め寄ってきた。それを合図に他の者も続く。
 呆気なく高宮に腕を掴まれた。振りほどこうとしたが、逆に腕を捩じり上げられた。痛みに顔が歪んだ。
 他の手が次々と真理愛に触れる。掴まれる。多勢に無勢、力任せに床に押しつけられる。上から体重をかけられ、身動きがとれない。大勢は決したが、抵抗の芽を完全に摘もうという意図か、感情が暴走した結果なのか、顔を殴りつけてくる者もいる。

 頭の中は熱かったが、樹音と玲奈の話し声は不思議と鮮明に聞きとれた。荷造り用の紐を持ってきた、と玲奈が言っている。真理愛と取り巻きたちが揉み合っているあいだ、玲奈一人が別行動をとったらしい。
 取り巻きたちは時間をかけて真理愛を縛り上げた。後ろ手に縛ったうえで足首も縛るという徹底ぶり。縛る強さ自体も、体に紐が食い込んで痛みを覚えるほどと、慈悲のかけらもない。

「みんな、こいつを下の物置部屋に連れて行って。外から鍵はかけられないけど、縛ってあるなら平気でしょ」
 樹音から指示が下り、縛られた真理愛は移動させられる。大きくて重たいものを運ぶときのように、体を水平にされ、高宮たちに四隅を持たれて階段を下りる、という形での移動だ。
 真理愛は抵抗しない。下手に暴れて落下すれば、最悪命まで失いかねないと思ったからだ。

 掃除道具をとりに来たときよりも、物置部屋は心なしか埃っぽく感じた。部屋の奥の隅に下ろされ、無機質なドアが無情にも閉ざされる。薄いドアを透過して、四人の話し声が遠ざかる。
「リュックサックの中身を探らないとね。持ち物をチェックしないと。もしかすると、湯田がなにを企んでいるかがわかるかもしれない」
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