鏖の季節

阿波野治

文字の大きさ
100 / 107

100

しおりを挟む
 真理愛はトモノリの友だちとして、「誰かに殺してもらうことで自らの命を終わらせたい」という歪んだ欲望を叶えるために協力したが、それは間違いだったのでは?
 本当は、トモノリを励まし、他者からのサポートを受けるようにすすめ、人生をたった三十年で終わらないように導くべきだったのでは?

 トモノリを殺さず、なおかつ彼が社会復帰に前向きになっていたならば、異常の枠から卒業した彼は、いじめっ子を鏖にするという、真理愛の異常な願望を否定し、やめさせようとしていた可能性もあり、だとすれば真理愛は樹音の家に宿泊する誘いを断っていたかもしれず、泊まらなければ当然殺人は起きなかったから、こうして真理愛が樹音を追いかけ、追いつくどころか突き放されている今が訪れることもなかった。

「――樹音! 待てぇっ!」
 たまらない気持ちになり、裏返る寸前の声で叫ぶ。
「命乞いをしろ。無様に額を地面にこすりつけて。そうすれば赦してやる。命だけは助けてやる。死にたくないんだろ? だったら、今までわたしにしたことを謝れよ。謝るから助けてくださいって言えよ。ほら、早く!」

 返事はない。ただ夜を駆ける音だけが聞こえている。それが徐々に遠ざかっていく。おそらく、樹音は振り向きもしていないだろう。人間だったころは湯田真理愛と呼ばれていた悪魔から逃れるために、一心不乱に全力疾走しているだけ。

 不意に、さびしさが胸を過ぎった。
 今までさんざん、わたしにあんな酷いことをしてきたくせに、いざ自分が被害に遭ったら逃げるのか。束の間向き合うことすらもなく。川真田樹音はなんて卑怯な人間なんだ。
 そういえばあいつは、高宮を見捨てて逃げた。高宮に一方的に危険な役回りを命じ、高宮がわたしを攻め立てているあいだはいっしょになって攻撃したくせに、いざ劣勢に立たされると見捨てて逃げる。友だちの命は命を擲ってでも助ける、ではなくて。

 樹音だけではない。
 神宮寺玲奈は、自分たちが日常的にいじめている相手により深いダメージを与えたいという動機で、好意を抱いてもいない真理愛に接近し、偽者の友人として振る舞った。
 トモノリは、「トモノリには死んでほしくない」という真理愛の願いを無視して、自分を殺すように彼女に迫った。
 真理愛だって、トモノリの死をさほど悲しまなかった。

 これがこの世界の仕組みなのだ。
 真の意味での友だちなど、できるはずがなかったのだ。
 この世界は、なんとさびしいのだろう。なんと虚しいのだろう。

 真理愛は見る見る減速する。足音が遠のいていく。
 そして、彼女の両足は止まる。
 先行する足音が聞こえなくなり、真理愛は闇の中に一人取り残される。
 脳髄は仕事を放棄している。自分自身を叱咤激励する気力はすでに空っぽだ。

「……終わってる」
 力なくひとりごち、血に濡れたすみれ色のワンピースを脱ぎ捨て、道の脇に広がる植物をかき分ける。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

10秒で読めるちょっと怖い話。

絢郷水沙
ホラー
 ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

痩せたがりの姫言(ひめごと)

エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。 姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。 だから「姫言」と書いてひめごと。 別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。 語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

処理中です...