101 / 107
101
しおりを挟む
メインストリートと呼ぶには、山中を真っ直ぐに走るその道の左右に広がる景色はさびしすぎる。草木、草木、空き地、草木、民家、草木、草木、草木――延々とそんな調子だ。隼人は気が張っているからなんとも思わないが、成長しすぎた木の幹や枝葉が、あふれ出すように路面の上空にせり出した光景は、客観的には極めて不気味なのだろう、とは思う。
道に入ったのに前後して、隼人は走行から歩行へと切り替えていた。体力が限界に近かったからだ。
民家を見かけるたびに表札を目で確認しているが、これまでのところ「川真田」の三文字には巡り合えずにいる。そもそも、「かなり大きな家」を見つけられていない。疲れと焦燥とが絡み合い、玲奈の情報がそもそも嘘だったのではないかと疑い、絶望の沼に沈みつつあった。
それでも隼人は捜索を継続する。愛する真理愛が酷い目に遭わされている公算が高いのに、見捨てるわけにはいかない。ここまで来て諦めるなど、プライドが許さない。
やがて、川真田家の場所を住人に尋ねてみよう、と方針を固めた。これから自分がしようとしている行為を考えれば、その情報を得たがっていることは誰にも知られたくないが、背に腹は代えられない。
次に見かけた民家が川真田家でなければ、新しく打ち出した方針を実行に移すつもりでいた。しかし間が悪いことに、道の両脇から民家どころか建物すらも消えた。
不意に前方から聞こえてきた音に、隼人は息を呑んで足を止める。
目を凝らしたが、視界に映るのは闇ばかりだ。
しかし、音は前方からたしかに聞こえてくる。近づいてくる。
足音なのは間違いないが、靴音ではないようだ。まさか、野生の動物でも出たのだろうか? 植物の陰に身を潜めようかとも考えたが、その場で待ち構えることを選ぶ。無意識に、ポケットに収めた包丁の柄を握りしめていた。
闇の中から徐々に浮かび上がってくるものがある。それは人の形をしている。まりりんかもしれない、という思いが初めて胸に浮かんだ。待ち受ける隼人の存在には気がついていないらしく、走るのをやめようとしない。荒い呼吸音が耳に届いた。
「……お前は」
思わず漏れたつぶきに、その人物の足が止まる。後ずさりをしたが、視線の方向は隼人のままだ。
彼はその人物の名前を呼ぼうとした。とたんにその人物が駆け寄ってきて、彼に抱きついた。
「おっ、おい。どうしたんだよ――川真田さん」
少女特有の柔らかさに困惑しながらも、隼人は今度こそ名前を口にした。
樹音は彼の両腕ごと束縛するように固く抱擁している。密着の度合いは深く、体の震えが伝わってくる。かなり激しい。肩が剥き出しの黒いネグリジェ一枚という姿。抱きつかれているので足元は見えないが、裸足なのだろうと想像がつく。髪の毛は乱れに乱れていて、少し汗臭い。
どう見ても、なにか事件が起きたとしか思えない。
道に入ったのに前後して、隼人は走行から歩行へと切り替えていた。体力が限界に近かったからだ。
民家を見かけるたびに表札を目で確認しているが、これまでのところ「川真田」の三文字には巡り合えずにいる。そもそも、「かなり大きな家」を見つけられていない。疲れと焦燥とが絡み合い、玲奈の情報がそもそも嘘だったのではないかと疑い、絶望の沼に沈みつつあった。
それでも隼人は捜索を継続する。愛する真理愛が酷い目に遭わされている公算が高いのに、見捨てるわけにはいかない。ここまで来て諦めるなど、プライドが許さない。
やがて、川真田家の場所を住人に尋ねてみよう、と方針を固めた。これから自分がしようとしている行為を考えれば、その情報を得たがっていることは誰にも知られたくないが、背に腹は代えられない。
次に見かけた民家が川真田家でなければ、新しく打ち出した方針を実行に移すつもりでいた。しかし間が悪いことに、道の両脇から民家どころか建物すらも消えた。
不意に前方から聞こえてきた音に、隼人は息を呑んで足を止める。
目を凝らしたが、視界に映るのは闇ばかりだ。
しかし、音は前方からたしかに聞こえてくる。近づいてくる。
足音なのは間違いないが、靴音ではないようだ。まさか、野生の動物でも出たのだろうか? 植物の陰に身を潜めようかとも考えたが、その場で待ち構えることを選ぶ。無意識に、ポケットに収めた包丁の柄を握りしめていた。
闇の中から徐々に浮かび上がってくるものがある。それは人の形をしている。まりりんかもしれない、という思いが初めて胸に浮かんだ。待ち受ける隼人の存在には気がついていないらしく、走るのをやめようとしない。荒い呼吸音が耳に届いた。
「……お前は」
思わず漏れたつぶきに、その人物の足が止まる。後ずさりをしたが、視線の方向は隼人のままだ。
彼はその人物の名前を呼ぼうとした。とたんにその人物が駆け寄ってきて、彼に抱きついた。
「おっ、おい。どうしたんだよ――川真田さん」
少女特有の柔らかさに困惑しながらも、隼人は今度こそ名前を口にした。
樹音は彼の両腕ごと束縛するように固く抱擁している。密着の度合いは深く、体の震えが伝わってくる。かなり激しい。肩が剥き出しの黒いネグリジェ一枚という姿。抱きつかれているので足元は見えないが、裸足なのだろうと想像がつく。髪の毛は乱れに乱れていて、少し汗臭い。
どう見ても、なにか事件が起きたとしか思えない。
0
あなたにおすすめの小説
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/1:『いえい』の章を追加。2026/1/8の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/31:『たこあげ』の章を追加。2026/1/7の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/30:『ねんがじょう』の章を追加。2026/1/6の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる