鏖の季節

阿波野治

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 メインストリートと呼ぶには、山中を真っ直ぐに走るその道の左右に広がる景色はさびしすぎる。草木、草木、空き地、草木、民家、草木、草木、草木――延々とそんな調子だ。隼人は気が張っているからなんとも思わないが、成長しすぎた木の幹や枝葉が、あふれ出すように路面の上空にせり出した光景は、客観的には極めて不気味なのだろう、とは思う。

 道に入ったのに前後して、隼人は走行から歩行へと切り替えていた。体力が限界に近かったからだ。
 民家を見かけるたびに表札を目で確認しているが、これまでのところ「川真田」の三文字には巡り合えずにいる。そもそも、「かなり大きな家」を見つけられていない。疲れと焦燥とが絡み合い、玲奈の情報がそもそも嘘だったのではないかと疑い、絶望の沼に沈みつつあった。
 それでも隼人は捜索を継続する。愛する真理愛が酷い目に遭わされている公算が高いのに、見捨てるわけにはいかない。ここまで来て諦めるなど、プライドが許さない。

 やがて、川真田家の場所を住人に尋ねてみよう、と方針を固めた。これから自分がしようとしている行為を考えれば、その情報を得たがっていることは誰にも知られたくないが、背に腹は代えられない。
 次に見かけた民家が川真田家でなければ、新しく打ち出した方針を実行に移すつもりでいた。しかし間が悪いことに、道の両脇から民家どころか建物すらも消えた。

 不意に前方から聞こえてきた音に、隼人は息を呑んで足を止める。
 目を凝らしたが、視界に映るのは闇ばかりだ。
 しかし、音は前方からたしかに聞こえてくる。近づいてくる。
 足音なのは間違いないが、靴音ではないようだ。まさか、野生の動物でも出たのだろうか? 植物の陰に身を潜めようかとも考えたが、その場で待ち構えることを選ぶ。無意識に、ポケットに収めた包丁の柄を握りしめていた。

 闇の中から徐々に浮かび上がってくるものがある。それは人の形をしている。まりりんかもしれない、という思いが初めて胸に浮かんだ。待ち受ける隼人の存在には気がついていないらしく、走るのをやめようとしない。荒い呼吸音が耳に届いた。

「……お前は」
 思わず漏れたつぶきに、その人物の足が止まる。後ずさりをしたが、視線の方向は隼人のままだ。
 彼はその人物の名前を呼ぼうとした。とたんにその人物が駆け寄ってきて、彼に抱きついた。

「おっ、おい。どうしたんだよ――川真田さん」
 少女特有の柔らかさに困惑しながらも、隼人は今度こそ名前を口にした。
 樹音は彼の両腕ごと束縛するように固く抱擁している。密着の度合いは深く、体の震えが伝わってくる。かなり激しい。肩が剥き出しの黒いネグリジェ一枚という姿。抱きつかれているので足元は見えないが、裸足なのだろうと想像がつく。髪の毛は乱れに乱れていて、少し汗臭い。

 どう見ても、なにか事件が起きたとしか思えない。
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