働きたくないから心療内科へ行ったら、色々分からなくなった

阿波野治

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三人で食事をしてみた

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 じいちゃんが入院して以来、僕は初めて日曜日恒例の見舞いに行かなかった。
 罪悪感を覚えたが、うーだのあーだのとしか言わないのだから、サボった事実を両親に報告される虞はないのだと考えると、気が楽になった。
 じいちゃんには申し訳ないが、仕方あるまい。誰だって、なにを喋っているか分からない高齢者に会いに行くよりも、歳が近い異性と一緒に食事をする方が楽しいに決まっている。

「ヴェルサイユ」は駐車場と店内は狭いが、外観も内装も小奇麗な店だった。駅前にあって、しかも日曜日の昼時だというのに、客の入りはせいぜい五十パーセントといったところで、かなり寂しいが、腰を据えて話をするには好都合な環境かもしれない。
 可愛くはないが不細工なわけでもない顔のウエイトレスに案内されたのは、トイレの近くのテーブル席。店内を物珍しげに眺め回し、ドアの開閉音がするたびに店の出入り口に目を向けながら待っていると、十分ほどでコセキさんが姿を見せた。案の定ゴシックロリータ風のファッションだ。その隣にはミサキちゃん。病院で会った時と同様、フリルだらけのピンク色の服を着ている。
 店内は広くないので、コセキさんはすぐに僕を発見した。ミサキちゃんと手を繋いでこちらにやって来る。コセキさんは眼差しも足取りも真っ直ぐに、ミサキちゃんは二人を待っている時の僕のように店内を見回しながら。
 二人がテーブルに辿り着いた。コセキさんに挨拶をしようと腰を浮かしかけた時、ミサキちゃんと目が合った。円らな瞳が見開かれ、それにワンテンポ遅れて唇も開かれ、右手が持ち上がり、人差し指が僕を指すと同時に、「あーっ!」という驚きを表現する大声。

「この前病院にいたおじちゃんだ。なんでここにいるの?」
「今日はね、僕とミサキちゃんとミサキちゃんのお母さんの三人で、一緒にお昼ご飯を食べることになっているんだ。楽しくお話なんかをしながら」

 ミサキちゃんは素早く母親を見上げた。コセキさんは口を三日月の形にして頷く。見上げた時と同じ素早さでミサキちゃんの顔の向きが元に戻る。

「ママとおじちゃんって知り合いなの? なんで?」
 同じ心療内科に通っていたのが縁で。必要最小限の言葉で答えるならばそういうことになるが、お母さんが心の病気の治療のために病院に通っている事実を、果たしてミサキちゃんに教えてしまってもいいのかどうか。判断に迷っていると、ミサキちゃんの表情がぱっと明るくなった。

「もしかして、ママとおじちゃん、付き合ってるの? ケッコンをゼンテイにコウサイしてるの? じゃあ、おじちゃんがミサキの新しいパパなんだ。わー、すごい!」
「私がニシハラさんと結婚? そんなわけないじゃない。さ、座りましょう」

 柔和な表情、穏やかな声でぴしゃりと言い、コセキさんは向かいの椅子に腰を下ろした。ミサキちゃんは納得のいかない顔を母親に向けていたが、再び促されると命令に従った。率先してメニューをテーブルの上に広げ、熱心に料理の写真を見比べる。新しいパパ云々のやりとりなどなかったかのような、そんな切り替えの早さだ。

「遠慮せずに、なんでも好きなだけ注文してね。お金は私が出すから」

 コセキさんは娘にも僕にも同じ言葉をかけた。お言葉に甘えて奢ってもらうべきか、男の僕が全額支払った方がいいのか、はたまた割り勘か。女性とデートをした経験がないので、どうするのが正解なのかが分からない。いずれにせよ、安い料理にしておけば怒られないだろうということで、日替わりランチを選択する。コセキさんはやたら長い名前のパスタを頼み、ミサキちゃんは一度に四種類も料理を注文した。

『いいんですか?』
 という顔をコセキさんに向けると、
『いいのよ』
 鷹揚な首肯が返ってきたので、「あ、別にいいんだ」と安心した。

 料理が続々とテーブルに到着し、自分の分が来た者から順に食事を始めていく。待っている間、テーブルから離れて店内をうろついたり、コセキさんや僕に大声で話しかけたりと、よく言えば元気いっぱいな、悪く言えば落ち着きのないところを存分に見せていたミサキちゃんは、マカロニグラタンが運ばれてくるなり、それをスプーンで口に運んでは咀嚼する作業に専念した。
 日替わりランチを食べながら、「話したいこと」とはなんなのか、考えてみたものの、全く見当がつかない。
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