働きたくないから心療内科へ行ったら、色々分からなくなった

阿波野治

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分からなくなった

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 死にたくなるほどきつい日差しが照りつけている。ただ、街路樹の枝葉が庇の役割を果たしているのに加えて、風がしきりに吹くので、涼しいとは流石に言えないまでも、暑苦しさは感じない。
 ミサキちゃんと手を繋いで歩く八月の昼下がりの並木道。行き先は地元の小規模な遊園地だ。

「まだかなー、ゆうえんち。はやくつかないかなー、ゆうえんち」

 ミサキちゃんは両腕を大きく振りながら歩く。服装はいつもの如くひらひらピンクだが、今日は蝶々のような形の真っ白なリボンを髪の毛に結んでいる。遊園地の最寄り駅で合流した時からずっとにこにこ顔だ。僕と一緒だからなのか、遊園地に行ければ誰と一緒でもいいのか。そこのところの確認は取らない方がいい気がする。

「あと十分くらいで着くよ。休憩しなくて大丈夫? ジュースは飲まなくても平気?」
「うん、へーき。はやく遊びたいなー、ゆうえんち」
「楽しみだね、遊園地」
「うん、楽しみ。ママもいっしょに来ればよかったのにね」

 曖昧に相槌を打ち、顔を後方に向ける。十数メートル先の街路樹の幹の陰に人が潜んでいるのが気配で分かる。コセキミユキさん。ゴシックロリータ風の黒衣に身を包んだ、ミサキちゃんのお母さん。

『ミサキが結婚できる年齢になるまで十年以上あるから、あなたなら充分に仲良くなれると思うわ。手始めに――はい、遊園地の一日フリーパス。二人分あるから、来週の日曜日にでも、水入らずで楽しむといいわ』

 その一日フリーパスは、二枚とも僕の上着の内ポケットの中にある。僕が要請を受諾するかどうかも分からない段階で準備していたとは、なんと用意周到なのだろう。ミユキさんは二十四歳だと言っていたが、しっかりしているなあと思う。結婚して子供が産まれれば誰でもそうなるのだろうか。

 僕の未来、ミサキちゃんの未来、ミユキさんの未来。この一週間、それなりに時間を割き、それなりに根を詰めて想像を巡らせてみたものの、はっきりしたものは見えてこなかった。確たる答えを得られない中、僕が出した結論は、今やるべきことをやるしかない、というものだった。今やるべきことをやる。それを愚直に繰り返しているうちに、なにか見えてくるものがあるはずだ。そう信じたかった。

 目の前の青信号が点滅し始めた。ミサキちゃんは駆け抜けようとしたが、万が一のことがあっては困るので、やんわりと両肩を掴んで押し留める。
 しかし、向かいの歩道にいた男性は目の覚めるような全力疾走を見せ、あっという間にこちら側に辿り着いた。すれ違いざま、男性は僕の耳元に囁いた。

「精神状態にお変わりないようなので、次回も不安が和らぐお薬を出しますね。お大事に」



 土産物がしこたま詰まった紙袋を提げて帰宅した時、空には辛うじて明るさが残っていた。荷物を玄関先に置く。庭の片隅。長く伸びた雑草の穂先。二匹のカメムシは今日もその場所にいた。尻をくっつけ合って交尾をしているのも前回見た時と同じだ。
 こいつら、交尾してるんじゃなくて、シャム双生児なんじゃないの?
 そんな疑惑が胸を過ぎったが、真実は確かめずに庭を後にした。半日ミサキちゃんと遊び回って、くたくただったのだ。
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