僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 レイの言うとおりだ。僕たちは一つの大きな枠の中で活動していたが、同じ目標を目指して行動をともにするのではなく、互いに単独行動をとっていた。枠の中に用意されているものの用途が限られているから、見かけのうえでは、同じ行動をとるという結果になっていただけで。

「だけど、気まずいとか、そういうことではなかったでしょ? 楽しかったでしょ? 人が好きで勝手に読んでいる漫画を、別に好きじゃないけどその人に付き合って読む、なんて窮屈な真似はしていないから。好きなことを好き勝手にやっていたから」
 これもレイの言うとおりだ。たしかに、楽しかった。自分を殺して共同作業を行わなかったからこそ、軋轢が生じる余地がなく、永遠に続いていきそうな安定感で「楽しい」が続いていた。

「曽我、むちゃくちゃ熱心に漫画を読んでいるようには見えないから、それがちょっと気になって。いや、責めるつもりはないよ? あたしが家にあった漫画を勝手に持ってきただけだから、好みに合わなかったとしても仕方ないし。だったら、無理にあたしの好きに合わせるんじゃなくて、曽我が夢中になれるものにのめりこむことで、あたしと二人きりの時間を楽しく気楽に過ごしてほしい。そう思ったから、ゲームをすればって言ってみたわけ」
 しゃべり終えると、レイは一瞬だけ苦笑して漫画に視線を戻した。そうしたあとは、見慣れた彼女の横顔があるばかりだ。

 無理に人に合わせるのではなくて、自分が好きなことをやるべき。
 進藤レイの思想を読み解くうえでも、僕の人生に影響をもたらしたという意味でも、その言葉の重要性は看過できないものがある。

 もっとも、それは当時から時間を置いて、冷静な心で客観的に眺めてみた結果、初めて気がついたことだ。当時の僕は、心を揺さぶられたのはたしかだが、レイのその発言の重要さを充分に認識していなかった。

 ほんとうにいいのかな。配慮してくれたのはありがたいけど、空気が悪くなっちゃいそうで、怖いな。
 そう思いながらゲーム機の電源を入れる。いきなり音が鳴り出したので、慌ててミュートした。レイはゲーム音についてはいっさい意見しなかったが、読書をするのだから静かなほうがいいに決まっている。
 同じポケモンのソフトばかり何年も遊びつづけているので、飽きている。好みではないが、未読ゆえに新鮮な気持ちで読める漫画と、どちらが充実した時間を送るためのパートナーとしてふさわしいのかな、という素朴な疑問はあった。
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