僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 僕にとって重要な二つの出来事が起きた翌日から、進藤レイに対する心構えに変化が現れた。
 レイに対する広義の好意も、いっしょに過ごす時間が楽しいと思う気持ちも、以前と変わらず高い水準を維持している。
 しかし、熱い想いの中に、冷めたかたまりが伴うようになった。
 熱い想いが心臓の大きさだと仮定すると、その冷めたかたまりはせいぜい米粒ほどに過ぎない。しかしそれは、レイに対する愛情や好意とは明確に異なる性質を有していて、それゆえにサイズに不釣り合いな存在感を誇った。

 といっても、常に僕の意識に強い影響力を及ぼしたわけではない。特定の状況になったとたん、今まで大人しくしていたのが嘘のように大量の冷気を撒き散らしはじめ、心をまたたく間に退廃的な銀世界に変えてしまうのだ。
「特定の状況」というのは、レイに対するポジティブな感情が極限まで高まったときのことを指す。換言するならば、彼女に対して熱くなりきれない呪いをかけられたようなものだ。

 レイと会話が盛り上がっているさなかにこの現象が起きたとして、急に口をつぐみ、頭を振って会話から自主的に離脱する、などという行動を僕が起こすことは絶対にない。ただし、表向きは何食わぬ顔で会話を続けながらも、おおむね以下のような意味のことを考える。
 僕はなにを熱くなっているんだろう。進藤さんは僕のことなんてなんとも思っていないのに。見返りなんて期待できないのに。僕一人が必死になって、馬鹿みたいだ。
 そう無声でつぶやいているあいだ、心はやるせなさと虚しさと自責の念で満たされている。表向きは平静でいられていることからも分かるように、決して激しい感情ではない。それでいて、なにをしても払拭できない驚異的な固着力を有している。追い払えたことは今までに一度もない。無視できるくらいに縮小するまで待つしか解決策はなかった。

 二つの出来事がもたらした影響は大きかった。一見、石沢との親密な会話のみが関係しているようにも思えるが、事前に庭での会話があったからこそ、コンビニでの一件の影響力が増したのは明らかだ。
 庭でレイからかけてもらった言葉に、僕は彼女に救世主の素質を見出した。心が劇的に楽になった。抱えている悩みのすべてが円満に解決した錯覚さえ抱いた。
 しかし、長続きしなかった。中学二年生の僕の日常をぶち壊した石沢が、三年の時を経て、今度は幻想を打ち砕いた。

 嫉妬。
 不信感。
 失望。
 よりによって石沢なんかと――。
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