僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

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 当時の僕は、無意識に、レイは自分だけのものだと思いこんでいた。狭い世界で生きてきたうえに、平日夕方の一時間の約束は堅持されたため、勘違いは勘違いのまま保存されていた。
 しかし、二人でコンビニまで買い物に行くという、いつもどおりからは少し外れた行動をとったとたん、脆く、儚く、虚構の王国は崩壊した。
 男子トイレと女子トイレの分岐点となる空間で一人、息を殺して聞き耳を立てる僕は、二人の会話だけではなく、王城が崩れゆく音も同時に聞いていたのかもしれない。

 レイの裏切り行為を責める気持ちが胸中を支配した。
 しかし同時に、幼稚な八つ当たりでしかないと理解してもいた。

 狭い世界で、人と関わり合う機会を必要最小限しか持たなかったせいで、独占欲が高まり、己の所有物を奪われたような錯覚に陥ったのだ。
 そうロジックを理解するだけの冷静さはあった。責められるべきは、改善するべきは、己の狭量さなのだと分かっていた。

 しかし嫉妬の念は、自分だけのものでいてほしい気持ちは、そう簡単に解消されるものではない。
 葛藤の末に心が導き出した、現実的で安全な妥協的解決策が、想いが一定の数値を超えそうになるとブレーキをかける、という処置だったのだろう。


* * *


 石沢とのあいだで起きた出来事以降、僕が密かにレイに抱いてきた醜悪でネガティブな感情の数々はすべて、彼女に対する広義の好意ゆえのものだった。高まりが過ぎるとブレーキをかけるのは、決して手放せない、手放したくない、大切な想いを死守するために講じられた防衛手段。戦略として後退したに過ぎず、レイへの想い自体が冷めたわけではない。
 しかし、熱くなるたびに待ったをかけられつづけたことで、脳が勘違いをしたとでもいうのか。あるいは、おあずけを食らいつづけることに嫌気が差したのか。レイに対する親しみや、彼女の存在自体や、彼女といっしょに過ごす機会を求める気持ちは、いつの間にか緩やかに低下しはじめていた。

 このおぞましい変化に気がついてからも、僕の表向きの行動にこれという変化は生じなかった。週五回の訪問を心から歓迎した。ゲーム・漫画・飲食、その合間に交わす会話、言葉少なに流れる二人きりの時間――そのすべてを僕は無邪気に満喫した。
 ただ、形のうえでは変わらないように見えても、全盛期と比べれば熱量が低下しているのは厳然たる現実。

 僕はいつの日か、レイに対して以前のように熱中できない自分を見出した。十点満点中十だった想いが九に減っていることに、ある日ふと気がついたのだ。
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