34 / 77
34
しおりを挟む
当時の僕は、無意識に、レイは自分だけのものだと思いこんでいた。狭い世界で生きてきたうえに、平日夕方の一時間の約束は堅持されたため、勘違いは勘違いのまま保存されていた。
しかし、二人でコンビニまで買い物に行くという、いつもどおりからは少し外れた行動をとったとたん、脆く、儚く、虚構の王国は崩壊した。
男子トイレと女子トイレの分岐点となる空間で一人、息を殺して聞き耳を立てる僕は、二人の会話だけではなく、王城が崩れゆく音も同時に聞いていたのかもしれない。
レイの裏切り行為を責める気持ちが胸中を支配した。
しかし同時に、幼稚な八つ当たりでしかないと理解してもいた。
狭い世界で、人と関わり合う機会を必要最小限しか持たなかったせいで、独占欲が高まり、己の所有物を奪われたような錯覚に陥ったのだ。
そうロジックを理解するだけの冷静さはあった。責められるべきは、改善するべきは、己の狭量さなのだと分かっていた。
しかし嫉妬の念は、自分だけのものでいてほしい気持ちは、そう簡単に解消されるものではない。
葛藤の末に心が導き出した、現実的で安全な妥協的解決策が、想いが一定の数値を超えそうになるとブレーキをかける、という処置だったのだろう。
* * *
石沢とのあいだで起きた出来事以降、僕が密かにレイに抱いてきた醜悪でネガティブな感情の数々はすべて、彼女に対する広義の好意ゆえのものだった。高まりが過ぎるとブレーキをかけるのは、決して手放せない、手放したくない、大切な想いを死守するために講じられた防衛手段。戦略として後退したに過ぎず、レイへの想い自体が冷めたわけではない。
しかし、熱くなるたびに待ったをかけられつづけたことで、脳が勘違いをしたとでもいうのか。あるいは、おあずけを食らいつづけることに嫌気が差したのか。レイに対する親しみや、彼女の存在自体や、彼女といっしょに過ごす機会を求める気持ちは、いつの間にか緩やかに低下しはじめていた。
このおぞましい変化に気がついてからも、僕の表向きの行動にこれという変化は生じなかった。週五回の訪問を心から歓迎した。ゲーム・漫画・飲食、その合間に交わす会話、言葉少なに流れる二人きりの時間――そのすべてを僕は無邪気に満喫した。
ただ、形のうえでは変わらないように見えても、全盛期と比べれば熱量が低下しているのは厳然たる現実。
僕はいつの日か、レイに対して以前のように熱中できない自分を見出した。十点満点中十だった想いが九に減っていることに、ある日ふと気がついたのだ。
しかし、二人でコンビニまで買い物に行くという、いつもどおりからは少し外れた行動をとったとたん、脆く、儚く、虚構の王国は崩壊した。
男子トイレと女子トイレの分岐点となる空間で一人、息を殺して聞き耳を立てる僕は、二人の会話だけではなく、王城が崩れゆく音も同時に聞いていたのかもしれない。
レイの裏切り行為を責める気持ちが胸中を支配した。
しかし同時に、幼稚な八つ当たりでしかないと理解してもいた。
狭い世界で、人と関わり合う機会を必要最小限しか持たなかったせいで、独占欲が高まり、己の所有物を奪われたような錯覚に陥ったのだ。
そうロジックを理解するだけの冷静さはあった。責められるべきは、改善するべきは、己の狭量さなのだと分かっていた。
しかし嫉妬の念は、自分だけのものでいてほしい気持ちは、そう簡単に解消されるものではない。
葛藤の末に心が導き出した、現実的で安全な妥協的解決策が、想いが一定の数値を超えそうになるとブレーキをかける、という処置だったのだろう。
* * *
石沢とのあいだで起きた出来事以降、僕が密かにレイに抱いてきた醜悪でネガティブな感情の数々はすべて、彼女に対する広義の好意ゆえのものだった。高まりが過ぎるとブレーキをかけるのは、決して手放せない、手放したくない、大切な想いを死守するために講じられた防衛手段。戦略として後退したに過ぎず、レイへの想い自体が冷めたわけではない。
しかし、熱くなるたびに待ったをかけられつづけたことで、脳が勘違いをしたとでもいうのか。あるいは、おあずけを食らいつづけることに嫌気が差したのか。レイに対する親しみや、彼女の存在自体や、彼女といっしょに過ごす機会を求める気持ちは、いつの間にか緩やかに低下しはじめていた。
このおぞましい変化に気がついてからも、僕の表向きの行動にこれという変化は生じなかった。週五回の訪問を心から歓迎した。ゲーム・漫画・飲食、その合間に交わす会話、言葉少なに流れる二人きりの時間――そのすべてを僕は無邪気に満喫した。
ただ、形のうえでは変わらないように見えても、全盛期と比べれば熱量が低下しているのは厳然たる現実。
僕はいつの日か、レイに対して以前のように熱中できない自分を見出した。十点満点中十だった想いが九に減っていることに、ある日ふと気がついたのだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。
たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】
『み、見えるの?』
「見えるかと言われると……ギリ見えない……」
『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』
◆◆◆
仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。
劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。
ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。
後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。
尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。
また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。
尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……
霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。
3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。
愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー!
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる