僕の輝かしい暗黒時代

阿波野治

文字の大きさ
75 / 77

75

しおりを挟む
 あたしは大輔が好き。あなたといっしょに過ごす時間を持ちたいって提案したのも、大輔が好きだからこそ。
 現状維持を崩したくないあたしからしてみれば、清水の舞台から飛び降りるような気持ちだった。大輔は戸惑っているみたいだったけど、提案を受け入れてくれた。むちゃくちゃうれしかった。大げさかもしれないけど、この世界にこんなにうれしいことがあったのかって、信じられない気持ちだった。夢なんじゃないかって、確認するために自分の頬をつねったりして。

 期待していたとおり、あなたと過ごす時間は楽しかった。両親とのあいだで言い争いが絶えない日常を、大輔といっしょにいるときだけはきれいに忘れられた。すごく助かった。すごくありがたかった。
 大輔が、あたしが考えていたよりも人付き合いが苦手だと判明したときは、親近感が湧いた。似た者同士だからこそ、絆は揺るぎないものに思えた。こんな関係がいつまでも続くと信じていた。

 でも、当たり前だけど、永遠なんていうものは存在しない。

 きっかけは、大輔が受験勉強中のストレスとの向き合いかたについて、あたしに相談したこと。
 自分だって目標なんて一度も持ったことがないくせに、あたしは愛読している漫画から拾い集めた知識やセリフを繋ぎ合わせて、目標を持つことの大切さを上から目線で大輔に説いた。あなたはあたしの意見が正しいと信じて、目標を探して、見事に見つけた。それによって、あたしが愛した代り映えしない平穏は崩れた。

 大輔が芸大に進学するって告白したの、合格が決まってからだったけど、変化には早い段階から気がついていたよ。あなたは進路について悩んでいたから、その問題に解決の目処が立ったんだってすぐに分かった。
 表向きはいつもどおりに大輔と接していたと思うけど、内心は穏やかではなかった。気持ちがあたしから徐々に離れていっているのが分かったし、進むべき道が確定すればきっともっと離れてしまう。物理的な隔たりが生まれてしまう可能性だって高い。

 どうにかしたくて、じゃあどうすればいいのって、必死になって考えるうちに気がついたの。大輔があたしから精神的に卒業したのを機に、わがままを押しとおすのをきっぱりやめて、この町から離れる。それがもっとも円満な解決策なんだって。

 たしかにあたしは、お母さんやお父さんと対立している。でもそれは、あたしがこの町から離れようとしないから。その問題と無関係のことであれば、両親はあたしによくしてくれている。あたしが一人では生きてはいけない人間だとちゃんと理解してくれているし、そしてそれが恥ずべきことだとは考えていない。だからこそ、「そんなにお父さんのもとに行くのが嫌なら、来るのが嫌なら、自分の力で金を稼いで一人で生きなさい」と突き放すのではなくて、お父さんのもとに行こうよって、来てくれって、粘り強くあたしに呼びかけてくれている。

 新しい環境に慣れるまでにはひどく時間がかかるだろうし、苦痛は耐えがたいかもしれない。だけど、両親からの手厚いサポートが期待できる。一人では生きていけないのに一人で生きていかなければならない、なんてことには絶対にならない。
 そしてなにより、大輔のためになる。目指すものを見つけたのだから、あたしの支えはもういらない。大輔は心根が優しいから、あたしがそばにいると、それが新しい一歩を踏み出す妨げになるかもしれない。だから、あなたのもとを去る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

カオルとカオリ

廣瀬純七
青春
一つの体に男女の双子の魂が混在する高校生の中田薫と中田香織の意外と壮大な話です。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

1分で読める怖い話短編集

しょくぱん
ホラー
一分で読める怖い話を定期的に投稿しています。 感想などをいただけると嬉しいです。 応援よろしくお願いします。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

小学生をもう一度

廣瀬純七
青春
大学生の松岡翔太が小学生の女の子の松岡翔子になって二度目の人生を始める話

処理中です...