わたしと姫人形

阿波野治

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四日目 その15

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 猿焼き会場では、人間の死体が映っているかもしれない写真を姫に見せようとするという、母親失格の振る舞いをマツバさんが見せたことに、わたしは優越感を覚えた。
 しかし、矛盾するようだが、その気持ちの中にマツバさんを低く見る気持ちは一切含まれていなかった。今になって思えば、友だちと戯れに行ったちょっとした競争で勝利を収めたから嬉しくなった、といった趣があった。言うなれば、親近感を抱いていたからこそ抱けた優越感だった。
 わたしにとって沢倉マツバという存在は、わたしが考えている以上に大きいらしい。

 この町に引っ越してきた当初、わたしは孤独だった。その状態のまま日々を過ごすことに異論はなく、むしろ望んでいた。引っ越しを決意した理由が理由だったからだ。もともと内向的で、非社交的な性格だったわたしは、世間一般の十代の女子のように、価値観を共有する仲間を、心置きなく交際できる友人を、そう強くは欲していなかった。まったく欲しくなかったわけではないにせよ。

 そんなわたしに、持ち前の人懐っこさを引っ提げて接近してきた人物、それがマツバさんだった。
 奇特な人だ、と最初は思った。わたしなんかのために気を回してくれてありがたい、申しわけない、という思いが湧かなかったと言えば嘘になる。しかし、どちらかと言うと、迷惑だ、静かに暮らさせてほしい、という気持ちのほうが強かった。彼女に悪意がないことも、善良な性格であることも、何回か言葉を交わした時点で把握していた。それでも、静かな暮らしを望んでいたわたしにとって、人怖じしない彼女の積極的なアプローチは少しうるさかった。過干渉だと感じた。
 それでも交流を重ねるうちに、彼女をうとましがる気持ちは着実に減退していった。わたしのマツバさんに対する認識は、「ちょっとうるさい近所の人」から「賑やかで楽しいご近所さん」へと緩やかに移行していった。

 どうやら、それに並行して、より深い、ある意味では生々しい感情が、わたしの中で密かに育まれていたらしい。
 それとも、「賑やかで楽しいご近所さん」という認識にはすでに到達していて、さらにその先、今のわたしには名前をつけることができない称号を目指して、感情が発展している途上だとでもいうのだろうか?


* * *


 母親から電話はかかってこなかった。
 短期的に見れば、文句なしに喜ばしい結果だ。しかし、中長期的な観点から見据えた場合、額に汗が滲むのを抑えられない。
 母親は、なにを企んでいるのだろう。
 わたしは、わたしたちは、どうなってしまうのだろう。

 明日は前々から楽しみにしていた「犬祭り。」の日なのに、姫が来てからは最悪といっても過言ではないくらい、寝つきが悪かった。
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