ここはラガヌム星

阿波野治

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 描かれるのは、大まかに分類すれば三パターン。
 第一群は、中世ヨーロッパの貴族風の衣服を身にまとった、達観した雰囲気を醸した中年男性。タッチはいくらかデフォルメがきいているが、リアル寄り。顔立ちは端正に描かれている。
 第二群は、ペンや消しゴム、雨傘やマイバッグなどの身近な品々のスケッチ。
 第三群は、体の一部分が無機物となった生物。下半身が鉄製の三脚になったオランウータン、蹄がホッチキスを何重にも重ねたような形になったヘラジカ、胸部から巨大な日本刀を突出させたホッキョクグマ――。

 中学生が描いたにしてはクオリティが高いと感じる。ただ、好き嫌いが分かれる絵柄なのは間違いない。デッサンは巧みだし、同性の目にも美形の男性は魅力的だが、無機物と組み合わせるのは悪趣味な感は否めない。細部まで入念に眺めていると、生野菜をドレッシングなしで食べたときのような不快感が喉の奥の奥からせり上がってくる。
 姉の絵を最後に見たのはいつだっただろう? もう久しくお目にかかっていない。

 スケッチブックを取り上げ、ページをランダムに開いてみる。右半分が白紙で、左半分に鉛筆でイラストが描かれている。
 人型の異形だ。
 頭部はいくらか肥大化していて、無毛。額の上からは手の小指ほどの長さの角が水平に突出している。双眸は東洋人のように小さく、黒目が占める領域が広い。口、胸、腰のくびれから足首にかけて、以上の三か所が布で覆われている。剥き出しの肩は人間そっくりだが、土星の輪を思わせるリングが填まった肘から先は、クラゲのような触手の束になっている。上から三枚目、下半身を覆う布の下から覗く足は小さな立方体で、黒く細い紐が大ざっぱに巻きつけてある。

 拓真は絵から目が離せない。
 グロテスクな絵だ。おぞましいし、歪んでいる。今すぐにスケッチブックを投げ捨てたいくらいなのに、凝視を解除できない。
 拓真が記憶するかぎり、姉はこの種の異形を描いたことがなかった。動物と無機物の融合体は、二つが作為的に組み合わされて一体と化しているが、異形はもともと一体。しかし受ける印象は、融合体よりもはるかに歪でグロテスクだ。
 異形は、この世界に実在するどんな生物にも似ていない。大まかな姿形は人間だが、顔、手、足、それらが人間のものとはかけ離れているせいで、人間の亜種だと認定するには抵抗感を覚える。
 紙に穴があくくらい入念に観察しながら考えたが、真実の光は射さない。

 拓真はこれまで、姉は「普通」から外れた人間だからグロテスクな絵を描くのだと決めつけ、それ以上の考察を放棄していた。しかし今となっては、その怠慢が悔やまれてならない。
 姉は普通から外れた人間なのは確かだが、送っているのは普通の暮らし。そんな人間が、多少入り組んだ空想を弄んだだけで、こんなにも異様な生命体を描き出せるはずがない。実際にこれと同じフォルムの異形と遭遇して、スケッチをしたと解釈した方がまだしっくりくる。

 不意に気配を感じた。全神経が後方に惹きつけられる。ぎぃ、と戸口の床板が軋む。
 いる。
 いつの間にか帰っている。家族が。
 まったく気がつかなかった。ただ帰宅しただけではなくこの部屋まで来たということは、
「拓真、あたしの部屋でなにやってんの?」
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