ここはラガヌム星

阿波野治

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十七

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 雰囲気が明らかにおかしかった。
 殺気立っているのだ。
 下手なことをしたり言ったりしたとたん、陰鬱な沈黙に沈んでいたのが一転、血相を変えて怒鳴り声を上げそうな気配を色濃く漂わせている。父、母、ともにそうだ。父は体が大きく、もともと不愛想に見える顔の造作をしているから、より威圧感がある。

 帰りの車中は陰惨の一言だった。
 狭い密室に流れる音は、カーラジオから聞こえてくる男女のパーソナリティの声のみ。日本語でしゃべっているはずなのに、数十年も昔に外国で録音された、肩肘張らない対談の模様を流しているかのようだ。音量は小さくないが、彼の意識に及ぼす影響はないに等しい。ちょっと手を伸ばせばオフにできるのにしないのだから、両親も息子と同じなのだろう。

 拓真の姉を除く野中家の三人は、彼が来春から通うことになるかもしれない学園の面談を終えたばかりだ。拓真、両親、それぞれが異なる教員を相手に面談を行った。
 拓真は顔がスターリンに似た男性教員の言葉に心を揺さぶられる場面もあったが、学園で学びたい意欲が湧くことは最後までなかった。幼稚園のころからずっと感じてきた集団生活に対する息苦しさと、中学二年生のときに不登校へと追い詰められたトラウマは、一介の教員の力で駆除できるほど柔ではない。むしろ、教員ごときの言葉に心を動かされた悔しさと、それに起因する反発心が生まれ、進路の選択肢から学園を除外したい気持ちでいっぱいだった。

 一方の両親の面談については、合流を果たしてからも詳細については一言も聞かされていないが、二人がまとう空気から、教員との対話が彼らにとって不愉快なものだったのは明らかだ。
 詳細を尋ねるのがはばかられる雰囲気が車内には蔓延している。そうでなくても拓真は、両親を含む他人に、積極的になにかを求めてこなかった人間だ。

 車窓越しに景色を眺めながら、真実に繋がる道を模索しているうちに、スターリンから「父親は拓真に対して強圧的か」という趣旨の質問をされたことを思い出した。
 学園の教員は、少なくとも拓真と彼の両親との面談を受け持った教員は、彼が不登校だったことを、両親からの申告によって当然把握している。のみならず、それに関連する情報――すなわち彼が内向的で非社交的な性格であること、個性的で手がかかる姉がいることとその姉との関係、息子に対して両親がどのような教育方針で臨んできたか、拓真がこれまでに経験してきた学校がらみの体験なども、同じく両親から聞いているはずだ。教員はその情報をもとに、両親にさらなる質問をしたり、指導者として意見したりしたに違いない。

 推察するに、両親との面談を担当した教員からの意見や指摘は、息子への両親の対応を非難するものだったのだろう。不登校の根本の原因はあなたたちの教育方針の誤りにある、といった言葉を浴びせられたのだろう。
 具体的にどのような言い回しが用いられたのか。真正面から手厳しく糾弾されたのか、遠回しに否定的な言葉を並べられたのか。問題がある、間違っている、そうするべきではなかったと指摘された両親の方針や言動はなんだったのか。
 全ては闇の中だが、教員の言葉に両親が不快感を抱いたという推理は間違ってはいないはずだ。
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