台風と金木犀

阿波野治

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阿澄 四

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 阿澄が八歳のとき、『マイノリティーモンスターズ』――通称『マイモン』というゲームソフトが発売された。
 合計二百種類のモンスター捕獲し、育成し、戦わせるという概要。コレクション性の高さと、育成の奥深さ、戦闘に問われる戦略性が広く高く評価され、爆発的なヒットを記録した。

 日本の多くの子どもたちと同じように、相原家の子どもたちにも『マイモン』が買い与えられた。
 日本の多くの男子たちと同じように、水無斗はモンスターを強く育てて戦わせることにのめり込んだ。一方の阿澄は、メインストーリーをクリアしたとたんに関心が薄れた。
 ゲームで遊ばなくなっても、テレビアニメは毎週欠かさずに視聴した。大好きな「マジケン」という犬のモンスターのグッズを集める趣味も続いている。しかし、火花が弾けるような情熱はどこかに行ってしまった。お年玉で買ったマジケンの特大ぬいぐるみも、いつしかほこりをかぶり、やがて押入れの中へと定位置を変えた。

 きょうだいが『マイモン』を遊ぶようになったときには、発売からすでに二年が経とうとしていて、二人がストーリーをクリアしたころに次回作の発売が告知された。それによると、『マイモン2』では新たなモンスターが二百体追加され、合計四百種類になるという。
 阿澄はうんざりした。きりがないと思ったからだ。
 彼女の『マイモン』熱は完全に冷めた。いまだに『マイモン』のゲームに熱中する弟の姿を見るたびに、無性にいらいらした。

「水無斗、『マイモン』なんてもうやめなよ。面白くないよ。そんなので遊んでも時間の無駄。あたしのクラスではもう誰もやってないし」
 いら立ちを隠さない声で苦言を呈したが、弟はそれを無視して『マイモン』で遊びつづける。爛々と輝く瞳は携帯ゲーム機の画面に釘づけで、姉の言葉をまともに聞いていないのは明らかだ。

 阿澄はかっとなって水無斗の手からゲーム機を奪いとり、床に叩きつけた。画面が真っ暗に染まり、彼は悲鳴を上げた。声の大きさと甲高さが癪に障り、弟の顔を殴った。たちまち泣き出した。
 阿澄はゲーム機をむんずと掴んで裸足のまま庭に出て、金木犀の木に向かって力任せに投げつけた。投げたものは枝に命中し、花のいくつかがぱらぱらと落ちた。ゲーム機を拾い上げて電源を入れてみたが、画面にはなにも映らないし音も聞こえてこない。
 彼女はさも満足そうにうなずき、リビングに戻って弟に壊れたゲーム機を差し出した。いやいやをして受けとりを拒絶したので、胸を突いて尻もちをつかせた。また泣き出した。彼女はゲーム機をごみ箱に捨て、おやつを求めて戸棚の中を漁る。

 水無斗が再び『マイモン』をプレイするのは、次回作である『マイモン2』が発売されるまで待たなければならなかった。
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