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阿澄 六
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学年が上がるにつれて、男子児童は阿澄と遊ばなくなっていった。
彼女はしかし、女子児童と仲よくなろうとは思わなかった。好きなことだけを追い求めていたかったからだ。
必然に水無斗と戯れる機会が増えた。姉から交流を求め、弟が嫌がりながらも最終的には受け入れる、という形が大半を占めた。
臆病だが心根の優しい弟は、姉の暴力的な言動をおそれていたが、それ以外のすべてを愛しているといっても過言ではなかった。弱さと愛情、二つの意味から姉に依存せざるを得なかった。
阿澄はそれにつけ込んで、弟をときにいじめ、ときに猫かわいがりするという形で愛した。
甘い言葉という飴と、暴力という鞭の使い分けは巧みだった。無理矢理なにかを強いるだけでは、面白くない。おそれを抱きながらも姉から離れられない水無斗だからこそ、かわいかった。
多少いびつながらも、きょうだいの関係は安定性を保っていた。
***
今年いくつ目かの台風が日本列島を縦断し、金木犀の花が一つ残らず散り落ち、相原家の夕食に赤飯が出た。
その日を境に、十歳になったばかりの阿澄は、性という未踏のジャンルに関心を持ちはじめた。
そのころ、きょうだいはまだ入浴をともにしていたが、阿澄はそのさいに水無斗の性器にいたずらをするようになった。
行為は執拗で、ときに暴力的で、弟の意思を無視した。彼女自身は、触ると嫌がり、嫌がるのが面白いからいたずらをしているという認識だったが、性への好奇心が原動力なのは疑いようがなかった。
水無斗は七歳にして、姉と混浴する習慣を自らの意思でやめた。彼の小学校入学を機に、きょうだいは別々の部屋で寝起きするようになっていたから、姉離れがいっそう進んだ格好だ。
阿澄はそれでもなお、弟と戯れる機会を積極的に作った。
取っ組み合いを仕掛けて急所に攻撃を加える。無理矢理服を脱がせて笑い転げる。馬乗りに押さえつけて鼻血が出るまで顔面を殴打する。
行為は暴力的になりがちだった。攻撃的で体格に勝る彼女にとって、弟はちょうどいい遊び道具だった。
小学生になっても弟はよく泣き、たびたび両親に被害を訴えたが、阿澄はきょうだい仲が真の意味で壊れる心配はしていなかった。水無斗が姉をおそれながらも愛し、依存していると知っているから。
「水無斗、おいで。ぎゅってしてあげる。仲直りしよう。もうあんなことは一生しないって約束するから。ねえ、水無斗ってば」
暴力の嵐が吹きすさぶ時間がやがて終息すると、阿澄は弟が逃げ込んだ自室のドアを開け放つ。満面の笑みで両手を広げ、猫撫で声で甘い言葉を投げかける。
消灯された暗い部屋の中、ベッドの上で膝を抱えた水無斗は、怯えと不信の眼差しを姉へと注ぐ。
阿澄は笑顔もポーズも崩さない。自分の強さと強みも、水無斗の弱さと弱みも、この世界の誰よりも知っているから。
弟はやがて甘言に屈し、ベッドから下りて姉に抱きつく。
阿澄は聖母のように抱きしめ返すこともあれば、暴君のように殴り飛ばすこともある。すべては彼女の意思一つで決まる。
あたしは神だ。
ときどきはそんなふうに、思ってもみないことを思ってみる。
彼女はしかし、女子児童と仲よくなろうとは思わなかった。好きなことだけを追い求めていたかったからだ。
必然に水無斗と戯れる機会が増えた。姉から交流を求め、弟が嫌がりながらも最終的には受け入れる、という形が大半を占めた。
臆病だが心根の優しい弟は、姉の暴力的な言動をおそれていたが、それ以外のすべてを愛しているといっても過言ではなかった。弱さと愛情、二つの意味から姉に依存せざるを得なかった。
阿澄はそれにつけ込んで、弟をときにいじめ、ときに猫かわいがりするという形で愛した。
甘い言葉という飴と、暴力という鞭の使い分けは巧みだった。無理矢理なにかを強いるだけでは、面白くない。おそれを抱きながらも姉から離れられない水無斗だからこそ、かわいかった。
多少いびつながらも、きょうだいの関係は安定性を保っていた。
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今年いくつ目かの台風が日本列島を縦断し、金木犀の花が一つ残らず散り落ち、相原家の夕食に赤飯が出た。
その日を境に、十歳になったばかりの阿澄は、性という未踏のジャンルに関心を持ちはじめた。
そのころ、きょうだいはまだ入浴をともにしていたが、阿澄はそのさいに水無斗の性器にいたずらをするようになった。
行為は執拗で、ときに暴力的で、弟の意思を無視した。彼女自身は、触ると嫌がり、嫌がるのが面白いからいたずらをしているという認識だったが、性への好奇心が原動力なのは疑いようがなかった。
水無斗は七歳にして、姉と混浴する習慣を自らの意思でやめた。彼の小学校入学を機に、きょうだいは別々の部屋で寝起きするようになっていたから、姉離れがいっそう進んだ格好だ。
阿澄はそれでもなお、弟と戯れる機会を積極的に作った。
取っ組み合いを仕掛けて急所に攻撃を加える。無理矢理服を脱がせて笑い転げる。馬乗りに押さえつけて鼻血が出るまで顔面を殴打する。
行為は暴力的になりがちだった。攻撃的で体格に勝る彼女にとって、弟はちょうどいい遊び道具だった。
小学生になっても弟はよく泣き、たびたび両親に被害を訴えたが、阿澄はきょうだい仲が真の意味で壊れる心配はしていなかった。水無斗が姉をおそれながらも愛し、依存していると知っているから。
「水無斗、おいで。ぎゅってしてあげる。仲直りしよう。もうあんなことは一生しないって約束するから。ねえ、水無斗ってば」
暴力の嵐が吹きすさぶ時間がやがて終息すると、阿澄は弟が逃げ込んだ自室のドアを開け放つ。満面の笑みで両手を広げ、猫撫で声で甘い言葉を投げかける。
消灯された暗い部屋の中、ベッドの上で膝を抱えた水無斗は、怯えと不信の眼差しを姉へと注ぐ。
阿澄は笑顔もポーズも崩さない。自分の強さと強みも、水無斗の弱さと弱みも、この世界の誰よりも知っているから。
弟はやがて甘言に屈し、ベッドから下りて姉に抱きつく。
阿澄は聖母のように抱きしめ返すこともあれば、暴君のように殴り飛ばすこともある。すべては彼女の意思一つで決まる。
あたしは神だ。
ときどきはそんなふうに、思ってもみないことを思ってみる。
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