すばらしい新世界

阿波野治

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帰ろう

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 暴力と破壊以外でいえば、不法侵入はスリルがあって、いいよね。人の家の庭とか、建設現場とかさ。建設現場といえば、家の近くの建設現場で拾った、多分廃材だと思うんだけど、バットくらいの長さの角材。気に入ったから持ち帰ったんだけど、庭に置いていたら親がゴミと勘違いしたらしくて、勝手に捨てちゃって。うちの親、大卒のくせにバカで、脳味噌の代わりにうんこが頭蓋骨に詰まってるから、かっこいい武器と臭いごみの区別もつかないんだ。無能だよ、無能。脳味噌がないだけに――って、漢字が違うか。
 親とは、不思議と本気でやり合ったことはないんだよね。あいつら、なんだかんだ放任主義なところがあるから。意見が真っ向から対立して、妥協点が見つからなくて衝突、みたいなことが少ないんだよね。
 ……ああ、また話が逸れちゃってる。次はなにを話そうかな。その他の武勇伝的なことでいうと――」


* * *
 

 イナはいつの間にか眠っていたらしい。
 秩序の破壊という意味では、話題は一貫していた。思い浮かんだものから、時系列を無視して話していたからか、眠りに落ちる前になにをしゃべっていたのかはまったく思い出せない。
 上体を起こし、気配を探りながら周囲を見回す。寝ている間に何者かの侵入を許したわけではなさそうだ。少女の希和子の姿と気配も確認できない。

 棺から下り、蓋を開けてみる。

「……ああ」

 リーフは消えていた。一時的に離脱しているのではなく、イナの望み通りに永遠に消滅したのだと、空洞を空隙なく満たす空虚感が如実に伝えている。
 寂寥感を孕んだ風がイナの胸を微かに波立てた。
 しかし、自らの行いを悔やむ気持ちは湧かない。誤魔化しでも、見て見ぬふりでもなく、本当にまったく後悔の念を覚えないのだ。

 きちんと蓋を閉め、部屋を出る。この部屋を訪れるまでの移動ルートを逆行するように、各部屋を回る。リーフも少女の希和子も、どの部屋にもいない。

 二階の子ども部屋――イナの母親が子ども時代に使っていた部屋の本棚を念入りに探したが、絵本は置いていなかった。昔日、希和子がイナにすすめた一冊が、ではなく、絵本のジャンルに属する書籍自体一冊もない。
 処分してしまったのだろうか? 己の娘が幼少時に愛読していた絵本を、娘の娘が小学生になるまで保管しておいた事実から逆算するに、希和子は物持ちがいいほうだと思われる。ただ、彼女の子ども世代も同じとは限らない。それとも、消えてしまったのはあくまでもこの世界での話であって、旧世界では依然として本棚に鎮座し続けている?
 いずれにせよ、これ以上、この家に滞在し続ける理由はなさそうだ。

「帰ろう」
 伊イナが帰るべき場所へと。
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