わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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いい加減に生きよう!

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「サチって、なんていうか、よくも悪くも無邪気なんだ。性格が単純っていうか。何事も深く考えないやつだから、いらいらさせられることが結構あるんだよね。子どもっぽいやつだなって、呆れることだって多々ある。無鉄砲なところもあるから、ひやひやさせられることも多いし」

 いきなり友人の悪口を並べ始めたからだろう、葵は困惑している。もちろん、要点はそこではない。

「でも、だからこそって言うべきなんだろうね、サチはなにをするのも楽しそうなんだよ。いつもへらへら緊張感のない笑みを浮かべているから、時と場合によっては、癪に障ることがあるかもしれない。男遊びの噂を流したやつも、サチのそんなところが気に食わなかったのかもしれないね。でも、一緒にいると凄く楽しいんだよ。くだらない話をしているだけなのに、凄く楽しい。サチの笑顔とか雰囲気には、そういうパワーが秘められているんだ。嫌なことを言ってくる心配がないから、こいつとなら楽しく過ごせるっていう、安心感もあるし」

 そこまで言ったところで言葉を切ったのは、これではのろけ話みたいではないか、と思ったからだ。空咳をして気を取り直し、葵に伝えたかったことを口にする。

「性格は人それぞれだし、変えたくても変えられない部分もあるのかもしれない。でも、葵はもう少しいい加減に生きてもいいと思うんだ」
「いい加減……?」
「うん、いい加減。葵って責任感が強いから、あらゆる人のあらゆる可能性を心配している、みたいな感じなんだよね。でもさ、みんな結構適当に生きているから、今すぐ解決しなきゃいけない大きな悩みを抱えている人間は、意外と少ないんじゃないかな。それに、葵以外にもその人を助けてあげられる人間はたくさんいる。だから、葵一人がそんなに頑張る必要はないよ」

 葵は黙っている。少し俯いていて、表情は読み取れない。しかし、僕の発言に口を挟まないこと、それこそが答えなのだと思う。

「葵の責任感と思いやりの強さは、誰もが持っているものじゃない。凄く大事で、凄く貴重なものだ。だから、それを残しつつ、いい意味でいい加減に振る舞うようにすれば、いろんなことがいい方向に向かうんじゃないかな。俺はそう思うよ」

 話をまとめるのに苦労したせいで、変なことまで語ってしまった気がする。……無茶苦茶恥ずかしい。
 でも、俺は知っている。少しくらいダサいところを見せても、葵はそれを笑う人間ではない、と。

 突然、葵が足を止めた。必然に俺の足も止まる。長々と話をしているうち体調が悪化したのだろうか、と焦ったが、葵は眩しいくらいに爽やかな微笑みを俺に向けた。

「そうだね。籾山くんの言う通りだと思う。私も、お節介な性格は自覚してる。鬱陶しがられて、逆にみんなに迷惑をかけてしまうことも何度もあった。だから、そこを改善しないといけないとは思っていたんだけど――籾山くんの話を聞いて、みんなのためじゃなくて自分自身のためにも直すべきなんだって、初めて気がついた。……ありがとう。これからは、もう少し気をつけてみるね」

 どういたしまして、と俺は微笑み返す。すると、葵は少し頬を赤らめてそっぽを向いた。さらには、

「早く保健室に行こう。怪我人なんだから、もっと気をつかってよ」

 少し怒ったように、でも迫力に欠ける声で、そんなことを言う。分かりやすすぎるくらい分かりやすい照れ隠しだ。そんなリアクションを、素直にかわいいと俺は思う。

 それから保健室に到着するまでは、特に何事もなかった。葵が「おんぶして」と甘えてくるのではないかと、内心期待していたのだが、そんな都合のいい展開になるはずもなかった。足をくじいたわけではないのだし、俺のアドバイスがあったとはいえ、葵は葵だ。残念だが当然の結果というべきだろう。

「じゃあ、俺は帰る。ゆっくり寝てろよ」

 ベッドに横になった葵に声をかける。しっかりと頷いたので、俺は安心して保健室を後にする。明日の朝には、必ずや元気な葵の顔が見られるだろう。

 ひっそりとした廊下を、体育館に向かって歩く。気分は、悪くない。
 今回葵と間みあったことは、サチに話すのではなくて、胸にしまっておこう。そう思った。
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