14 / 15
保健室に向かいながら
しおりを挟む
俺は先ほどの新谷の行動を真似るように葵の顔を覗き込む。
「葵、大丈夫か。どこか痛いとか、ない?」
「ちょっと頭が痛い、かも……」
「じゃあ、やっぱり保健室だな。ちょっと横になってたら体調もよくなるだろ。歩けそう? ていうか、立てる?」
「……いい。保健室に行かなくても、座って少し休んでいれば」
葵はまだ顔をしかめているし、頭を押さえている。横になりたい気持ちはきっとあるはずだ。こんなときでも他人に迷惑をかけまいとする優しさが、少しもどかしい。
「だめだめ。新谷とも約束したんだから、保健室行きは決定事項だよ。ほら」
俺は立ち上がり、無理矢理気味に葵の手を引っ張る。葵は驚いた様子だったが、強引さに屈して腰を上げた。そのさい、体は少しふらついた。
「じゃあ行くか。ゆっくり歩くから、肩とか腕に掴まる感じでついてきて。おんぶはしなくてもいいよな?」
「……そこまで強引とは思わなかった」
葵は唇を尖らせている。そんな彼女に、俺は努めて柔らかく笑いかける。
「人に迷惑かけたくない気持ち、分かるよ。でも、ぶつけちゃった新谷も心配だろうし、俺も心配だから、俺たちを安心させるために俺に甘えてくれよ。……な?」
迷惑をかけたくないあまり好意を拒むと、逆に迷惑だから、素直に好意を受け入れろ。ある意味そう脅しているようなものだ。そういう意味では罪悪感もなくもなかったが、
「――分かった」
葵は消え入るような声で呟いて、俺に体を寄せて腕に掴まった。
「よし。それじゃあ、行くか」
俺たちは移動を開始した。
*
授業中ということで、校舎の中は静まり返っている。静けさの中を、俺と葵は急がない足取りで目的地へと向かっている。
出発してからずっと、葵は俺の腕に軽く掴まっている。体ごと寄りかかるのではなく、あくまでも軽く掴むだけ。表情を見る限り、頭痛が続いているのはたしからしいが、ようするにその程度の体調不良なのだ。
このくらいだったら、別に俺が付き添う必要、なくね?
そうも思ったが、たとえば体がふらついたとき、階段に備わったスロープでは葵を受け止めてあげられない。だから、きっと意味はある。そう思い込むことにしよう。
移動している間、俺たちはずっと無言だ。頭痛の症状がある人間に話しかけても迷惑になるから、という配慮ももちろんある。しかしそれ以上に、そんな気分にはなれないのが大きかった。問題は葵ではなく、俺にある。物理的に近づいた分、葵の髪の毛の匂いや息づかいなどがリアルに伝わってきて、緊張してしまうのだ。
ただ、俺に迷惑をかけているという意識が葵にはあるだろうから、完全に黙られるのもそれはそれで嫌だろう。だから、こちらから口火を切ることにした。
「新谷、わざとじゃないから許してやってくれよ。腹の虫が収まらないっていうなら、俺が代わりに謝る」
「それは分かってる。新谷さんのことは別になんとも思ってない。不運なちょっとした事故ということで、私の中では完結してるから」
葵はどこか淡々と答えた。責任のない者には絶対に責任を負わせず、決して恨み言は言わない。葵らしいな、と思う。
でも、なにかに寄りかからなければ歩けない状況にもかかわらず、誰かに気をつかう姿を見せられると、心苦しくなる。
「サチについて、ちょっと話してもいいかな」
「……東さんに関する悪い噂について、私が言及したことについて?」
「いや、それは全くの無関係。根も葉もないデマだって、葵には信じてもらえたわけだから」
手負いの女子相手に、解決済みの話を蒸し返して難詰するなんて、有り得ない。たしかに俺はバカかもしれないが、そこまで頭が悪くはない。
「葵、大丈夫か。どこか痛いとか、ない?」
「ちょっと頭が痛い、かも……」
「じゃあ、やっぱり保健室だな。ちょっと横になってたら体調もよくなるだろ。歩けそう? ていうか、立てる?」
「……いい。保健室に行かなくても、座って少し休んでいれば」
葵はまだ顔をしかめているし、頭を押さえている。横になりたい気持ちはきっとあるはずだ。こんなときでも他人に迷惑をかけまいとする優しさが、少しもどかしい。
「だめだめ。新谷とも約束したんだから、保健室行きは決定事項だよ。ほら」
俺は立ち上がり、無理矢理気味に葵の手を引っ張る。葵は驚いた様子だったが、強引さに屈して腰を上げた。そのさい、体は少しふらついた。
「じゃあ行くか。ゆっくり歩くから、肩とか腕に掴まる感じでついてきて。おんぶはしなくてもいいよな?」
「……そこまで強引とは思わなかった」
葵は唇を尖らせている。そんな彼女に、俺は努めて柔らかく笑いかける。
「人に迷惑かけたくない気持ち、分かるよ。でも、ぶつけちゃった新谷も心配だろうし、俺も心配だから、俺たちを安心させるために俺に甘えてくれよ。……な?」
迷惑をかけたくないあまり好意を拒むと、逆に迷惑だから、素直に好意を受け入れろ。ある意味そう脅しているようなものだ。そういう意味では罪悪感もなくもなかったが、
「――分かった」
葵は消え入るような声で呟いて、俺に体を寄せて腕に掴まった。
「よし。それじゃあ、行くか」
俺たちは移動を開始した。
*
授業中ということで、校舎の中は静まり返っている。静けさの中を、俺と葵は急がない足取りで目的地へと向かっている。
出発してからずっと、葵は俺の腕に軽く掴まっている。体ごと寄りかかるのではなく、あくまでも軽く掴むだけ。表情を見る限り、頭痛が続いているのはたしからしいが、ようするにその程度の体調不良なのだ。
このくらいだったら、別に俺が付き添う必要、なくね?
そうも思ったが、たとえば体がふらついたとき、階段に備わったスロープでは葵を受け止めてあげられない。だから、きっと意味はある。そう思い込むことにしよう。
移動している間、俺たちはずっと無言だ。頭痛の症状がある人間に話しかけても迷惑になるから、という配慮ももちろんある。しかしそれ以上に、そんな気分にはなれないのが大きかった。問題は葵ではなく、俺にある。物理的に近づいた分、葵の髪の毛の匂いや息づかいなどがリアルに伝わってきて、緊張してしまうのだ。
ただ、俺に迷惑をかけているという意識が葵にはあるだろうから、完全に黙られるのもそれはそれで嫌だろう。だから、こちらから口火を切ることにした。
「新谷、わざとじゃないから許してやってくれよ。腹の虫が収まらないっていうなら、俺が代わりに謝る」
「それは分かってる。新谷さんのことは別になんとも思ってない。不運なちょっとした事故ということで、私の中では完結してるから」
葵はどこか淡々と答えた。責任のない者には絶対に責任を負わせず、決して恨み言は言わない。葵らしいな、と思う。
でも、なにかに寄りかからなければ歩けない状況にもかかわらず、誰かに気をつかう姿を見せられると、心苦しくなる。
「サチについて、ちょっと話してもいいかな」
「……東さんに関する悪い噂について、私が言及したことについて?」
「いや、それは全くの無関係。根も葉もないデマだって、葵には信じてもらえたわけだから」
手負いの女子相手に、解決済みの話を蒸し返して難詰するなんて、有り得ない。たしかに俺はバカかもしれないが、そこまで頭が悪くはない。
0
あなたにおすすめの小説
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
俺をフッた幼馴染が、トップアイドルになって「もう一度やり直したい」と言ってきた
夏見ナイ
恋愛
平凡な大学生・藤堂蓮には忘れられない過去がある。高校時代、告白した幼馴染の星宮瑠奈に「アイドルになるから」とこっ酷くフラれたことだ。
数年後、瑠奈は国民的アイドル『LUNA』として輝いていた。遠い世界の住人になった彼女との再会なんて、あるはずもなかった――そう、変装した彼女が俺の前に現れ、「もう一度やり直したい」と泣きつくまでは。
トップアイドルの立場を使い強引に迫る元幼馴染と、過去の傷。揺れ動く俺の日常を照らしてくれたのは、俺の才能を信じてくれる後輩・朝霧陽葵の存在だった。
俺をフッた幼馴染か、俺を支える後輩か。過去の清算と未来の選択を描く、ほろ苦くも甘い、逆転ラブコメディ、開幕。
S級ハッカーの俺がSNSで炎上する完璧ヒロインを助けたら、俺にだけめちゃくちゃ甘えてくる秘密の関係になったんだが…
senko
恋愛
「一緒に、しよ?」完璧ヒロインが俺にだけベタ甘えしてくる。
地味高校生の俺は裏ではS級ハッカー。炎上するクラスの完璧ヒロインを救ったら、秘密のイチャラブ共闘関係が始まってしまった!リアルではただのモブなのに…。
クラスの隅でPCを触るだけが生きがいの陰キャプログラマー、黒瀬和人。
彼にとってクラスの中心で太陽のように笑う完璧ヒロイン・天野光は決して交わることのない別世界の住人だった。
しかしある日、和人は光を襲う匿名の「裏アカウント」を発見してしまう。
悪意に満ちた誹謗中傷で完璧な彼女がひとり涙を流していることを知り彼は決意する。
――正体を隠したまま彼女を救い出す、と。
謎の天才ハッカー『null』として光に接触した和人。
ネットでは唯一頼れる相棒として彼女に甘えられる一方、現実では目も合わせられないただのクラスメイト。
この秘密の二重生活はもどかしくて、だけど最高に甘い。
陰キャ男子と完璧ヒロインの秘密の二重生活ラブコメ、ここに開幕!
クラスで一番人気者の女子が構ってくるのだが、そろそろ僕がコミュ障だとわかってもらいたい
みずがめ
恋愛
学生にとって、席替えはいつだって大イベントである。
それはカースト最下位のぼっちである鈴本克巳も同じことであった。せめて穏やかな学生生活をを求める克巳は陽キャグループに囲まれないようにと願っていた。
願いが届いたのか、克巳は窓際の後ろから二番目の席を獲得する。しかし喜んでいたのも束の間、彼の後ろの席にはクラスで一番の人気者の女子、篠原渚が座っていた。
スクールカーストでの格差がありすぎる二人。席が近いとはいえ、関わることはあまりないのだろうと思われていたのだが、渚の方から克巳にしょっちゅう話しかけてくるのであった。
ぼっち男子×のほほん女子のほのぼのラブコメです。
※あっきコタロウさんのフリーイラストを使用しています。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる