わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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飛んできたバスケットボール

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 バスケをプレイする生徒、そしてそれを応援する生徒たちの歓声で、体育館の中央は賑やかだ。対照的に、館内の片隅に向かい合って座る俺たちは、重苦しく押し黙っている。その空気を打破するべく、俺が選んだのは、

「――葵」

 微笑みかけることだった。俺は葵と喧嘩がしたいわけじゃない。だから、穏やかに、冷静に、自分の考えを伝えることにした。

「サチは悪いやつじゃないよ。たしかに部を創ろうと言い出したのはあいつだけど、企みとか、思惑とか、そんな複雑なものを胸に仕舞いながら生きていけるほど、器用なやつじゃない。子どもっぽくて、単純なところもあるけど、裏表がなくて、明るくて、憎めない、そんなやつだから。男遊び云々は、サチを逆恨みしたやつが流したデマだと思うよ。どんな善良な人間にも、つまらないケチをつけるやつはいるからね」

 葵はまばたきもしないで話に耳を傾けている。

「どこから仕入れたのか分からないけど、その情報は間違っている。サチの友だちの俺が言うんだから、間違いない。だから葵は、俺のことは心配しなくていいし、サチのことを悪いやつだと思わないでほしい。……俺からは以上」

 葵は俺から視線を逸らし、少し眉をひそめて黙り込んだ。しかし、すぐに再び俺の顔を見つめて、表情を大きく和らげた。

「籾山くんが語った東さんが、本当の東さんなんだね。彼女がどんな子なのかは全然知らないのに、問題がある子だって決めつけるような言い方をしたのは、完全に私が間違っていた。籾山くんや東さんを傷つけるようなことを言ってしまって、ごめんなさい」

 深々と頭を下げる。深いだけではなく、下げていた時間が長かったので、軽く戸惑ってしまったほどだ。

「籾山くんと東さんの関係に問題がないって分かって、安心した。……言い訳みたいだけど、彼女を悪く言うつもりはなかったの。私としては、ただ純粋に――」

 不意に気配を感じ、俺は素早く右方向を振り向いた。視界に飛び込んできたのは、猛スピードでこちらに向かってくる球状の物体。――バスケットボールだ。

「危ない!」

 咄嗟に叫んだが、葵が事態を認識するよりも早く、ボールは彼女の側頭部にクリーンヒットした。葵は俺にもたれかかるように倒れた。

「うわー、ごめんなさい!」

 女子生徒がツインテールを揺らしながら駆け寄ってくる。クラスメイトの新谷栞だ。

「委員長、大丈夫? もろで直撃しちゃったけど」

 新谷は俺から引き剥がすように葵の体を起こし、顔を覗き込む。葵はボールが当たった箇所を手で押さえ、端正な顔を歪めている。

「籾山くん、どうしよう。保健室、行った方がいいよね? 当たったの、頭だもんね」

 新谷は不安そうな顔で、俺と葵の顔を交互に見ながら問う。

「そうだね。そんなに強くではないけど、場所が場所だから安静にした方がいい。俺が連れていくから、新谷は授業に戻れよ」
「……任せてもいいの?」
「ああ。どうせ体育館にいても座ってるだけだし」

 慌てようを見るに、新谷は明らかに故意にボールを当てたわけじゃない。誰もが認める優等生で、怒ると怖い葵に危害を加えるなんて愚かな真似、うちのクラスの人間がするはずはない。ただ、悪意はなかったとはいえ、被害を与えたばかり人間と行動をともにするのは気まずいだろう。だから、俺が立候補した。

「じゃあ、お願いしようかな。委員長、ごめんね」

 二度目の呼びかけに、葵は小さく頭を振った。新谷はボールを胸に抱えて仲間のもとに戻っていった。
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