わたしといっしょに新しく部を創らない?と彼女は言った。

阿波野治

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体育の授業にて

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 高校生になって初めての保健体育の授業は、バスケットボールだった。団体競技を行うことで、知り合って間もない者同士が親睦を深める、という意味合いがあるらしい。

 俺はというと、体育館の隅に座ってスマホを弄っている。スポーツが好きでも得意でもなく、体を動かしたくないからだ。
 本来であれば、試合に出ていない生徒は練習をしていなければいけないのだが、そんなものは無視だ。体育教師は主審を務めていて、周りに気を配る余裕はない。それをいいことに、男女を問わず、結構な人数がサボっている。赤信号はみんなで渡れば怖くない、というわけだ。

「籾山くん」

 突然声をかけられたので、思わずスマホを取り落としそうになった。危ういところで床への落下を阻止し、顔を上げる。目の前に立っていたのは、

「葵」

 学級委員長の葵若菜だった。体育の授業中なので、色気もなにもないジャージ姿。サボっていることを叱りに来たとのかと思って身構えたが、険しい表情ではない。

「籾山くんはバスケはしないの?」
「ああ。体を動かすなんて、面倒くさくてやっていられないから。そういう葵こそ、なんで俺のところに?」
「さっきまで試合をしていて、今は休憩タイム。籾山くんが一人でいるのを見かけたから、この前のこともあるし、ちょっと声をかけてみようと思って。……その様子だと、思い悩んでいるわけではなさそうね」
「部を創りたいっていう話、気にかけてくれていたんだ。なんか、悪いね。葵は無関係なのに」
「気になるからね、少しでも関わっちゃうと。あれから三日が経ったけど、なにか進展があった?」
「いや、残念ながら全く」
「そっか。まあ、残された時間はたっぷりあるんだから、焦って答えを求めるのはよくないよね」
「そうだね。俺もそう思う」

 サチと笑い合って無駄話に耽る時間が楽しいから、当面はそちらを優先させたい。そう言おうかと思ったが、やめておく。のろけ話は誰が聞いてもいらいらするものだし、それになにより、あいつとの思い出は二人占めしたい。
 葵はおもむろに、コートで試合に汗を流している女子たちを肩越しに見た。そろそろ会話を切り上げるのかな、と思いきや、その場にしゃがんだ。真正面から、至極真面目な顔で俺を見つめてくる。

「……どうしたの?」
「籾山くんと一緒に部を創ることになった女子、東サチさんって言ったよね」
「そうだけど、それがどうかしたの?」
「髪の毛をピンクに染めている子、なんでしょ。他校の男子と遊び回っているとか、あまりよくない噂をよく聞くんだけど」

 葵のその発言に、俺は率直に驚いた。
 サチが他校の男子と遊び回っている? そんなはずはない。なぜって、あいつは俺にそんな話をしたことは一度もないのだから。あいつは単純な性格だから、嘘はつかないし、隠しごともしない。間違っているとすれば、葵がどこからか手に入れた噂話の方だ。

 恐らく、デマだ。サチのことを快く思っていない誰かが、サチを貶めるために、悪意に満ちたフェイク情報を流したのだ。

 サチの話を聞く限り、あいつはクラスの男子とも女子とも上手くやっているようだ。ただ、よくも悪くも無邪気で子どもっぽい性格だから、そこが気に食わないと思っている生徒もいるかもしれない。デマを意図的に流した輩がいるのだとすれば、犯人はきっとそいつだ。

「葵はなにが言いたいわけ? サチは素行が悪いから、友だち付き合いはやめろとでも?」

 俺の声は刺々しくなる。親友が悪意にさらされているのだと思うと、不可抗力的にそうなってしまったのだ。サチを貶めようとしているのは見知らぬ誰かであって、葵ではないのに。

「ううん、違うよ。そんなことを言う権利、私にはない。ただ――」
「ただ、なんだよ」
「籾山くんの話では、部を創りたいと言ったのは東さんからなんだよね。だから、もしかしたら、籾山くんは東さんにいいように利用されているんじゃないかなって、少し心配になって」

 流石は葵というべきか、俺の剣幕にも怯むことなく言葉を返してくる。
 さて、どうしよう。俺はサチのために怒り続けるもできるし、葵に厳しい言葉をぶつけたのを謝ることもできる。果たして、どちらが正しいのか。
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