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午後六時半の鐘が荘厳に鳴り響いた。
学習机に向かって書き物をしていたマーガレットは、ノートを閉じてペンを置き、指を絡め合った両手を天に突き上げて伸びをした。
肩越しに振り返ると、部屋の中央に置かれた丸テーブルの上に、大小の菓子の空き箱が積み木のように積み上げられている。ルームメイトのヘレンが、積み木ならぬ空き箱積み遊びをしているのだ。
紙製のタワーは現在、椅子に座っているヘレンの目よりも少し上くらいの高さ。使われている箱は五つか六つ。
空き箱積みは、ヘレンが暇を持て余しているときによくやる遊びだ。
マーガレットは最初にそれをやっているのを見たとき、「幼稚園児じゃないんだから」と呆れたが、今はなんとも思わない。
無邪気に振る舞う姿こそヘレンをもっとも魅力的に見せると、共同生活を送る中で発見したのが大きかった。「幼稚」という認識が「無邪気」に変わってからは、マーガレットは自分がしている作業の手さえ止めて、その遊びを遊ぶルームメイトを眺めることさえあった。
ただ、今は呑気に見物している場合ではない。
「ヘレン、もうそろそろ時間だよ。着替えよう」
ひと声かけて椅子から立つ。
「ふぁーい」
ヘレンはあくびと返事を同時にした。それに続いて伸びをした拍子に、積み上げていた箱の一個に手が当たり、音を立てて崩落した。眠気に薄く淡く侵されていた顔が一気に自分を取り戻した。
「あー、崩れた! 惜しい! 惜しすぎる! 最高記録まであと六個ってところまで迫ってたのにー」
「いや、全然遠いじゃん」
椅子を机の下にしまいながら、なかば反射的にツッコミを入れていた。
「ていうか、十個以上も積んだことがあるんだね。見たかぎり、なんか、いつも五・六個あたりをうろちょろしているイメージあるけど」
「気分的には毎回二十個以上はいってるよ」
「そもそもニ十個もなくない? 空き箱のストック」
「気分的には、だよ」
マーガレットは「あっそう」と小声でつぶやき、クローゼットのドアを開ける。本来は一人用のスペースを二人で分け合っていて、ヘレンに割り当てられた左側だけごちゃついている。
「あとにしておきなよ」
ヘレンが菓子箱をわざわざ収納ボックスの中にしまいはじめたのを肩越しに見て、マーガレットはそんな一言を投げかけた。さらには部屋着を上から順番に脱ぎながら、
「空き箱なんてきっちり片づけなくても、部屋の隅にでも適当に転がしておけばいいでしょ。どうせ誰も盗まないんだから。大ざっぱに見えて几帳面なところあるよね、ヘレンって」
「収納ボックスは収納するから収納ボックスなんでしょ。収納ボックスがあるのに収納しないなんて、意味ないじゃん。収納しない収納ボックスなんて収納ボックスじゃなくてもはや――」
「収納収納うるさい。収納ボックスを使うなじゃなくて、しまうのはあとにしてって言っているだけだから」
「まだ半時間もあるのに。マーガレットはせっかちだなぁ」
「ヘレンはぐずぐずするから、あってないようなものだよ。ていうか、そもそも空き箱なんて、わざわざとっておくほうがおかしいからね」
「お菓子の箱だけに」
「なにそのダジャレ。真夏なのに、寒っ」
「それはマーガレットが今、下着姿だからだよ。早く寝間着に着替えなよ」
「ヘレンもね」
学習机に向かって書き物をしていたマーガレットは、ノートを閉じてペンを置き、指を絡め合った両手を天に突き上げて伸びをした。
肩越しに振り返ると、部屋の中央に置かれた丸テーブルの上に、大小の菓子の空き箱が積み木のように積み上げられている。ルームメイトのヘレンが、積み木ならぬ空き箱積み遊びをしているのだ。
紙製のタワーは現在、椅子に座っているヘレンの目よりも少し上くらいの高さ。使われている箱は五つか六つ。
空き箱積みは、ヘレンが暇を持て余しているときによくやる遊びだ。
マーガレットは最初にそれをやっているのを見たとき、「幼稚園児じゃないんだから」と呆れたが、今はなんとも思わない。
無邪気に振る舞う姿こそヘレンをもっとも魅力的に見せると、共同生活を送る中で発見したのが大きかった。「幼稚」という認識が「無邪気」に変わってからは、マーガレットは自分がしている作業の手さえ止めて、その遊びを遊ぶルームメイトを眺めることさえあった。
ただ、今は呑気に見物している場合ではない。
「ヘレン、もうそろそろ時間だよ。着替えよう」
ひと声かけて椅子から立つ。
「ふぁーい」
ヘレンはあくびと返事を同時にした。それに続いて伸びをした拍子に、積み上げていた箱の一個に手が当たり、音を立てて崩落した。眠気に薄く淡く侵されていた顔が一気に自分を取り戻した。
「あー、崩れた! 惜しい! 惜しすぎる! 最高記録まであと六個ってところまで迫ってたのにー」
「いや、全然遠いじゃん」
椅子を机の下にしまいながら、なかば反射的にツッコミを入れていた。
「ていうか、十個以上も積んだことがあるんだね。見たかぎり、なんか、いつも五・六個あたりをうろちょろしているイメージあるけど」
「気分的には毎回二十個以上はいってるよ」
「そもそもニ十個もなくない? 空き箱のストック」
「気分的には、だよ」
マーガレットは「あっそう」と小声でつぶやき、クローゼットのドアを開ける。本来は一人用のスペースを二人で分け合っていて、ヘレンに割り当てられた左側だけごちゃついている。
「あとにしておきなよ」
ヘレンが菓子箱をわざわざ収納ボックスの中にしまいはじめたのを肩越しに見て、マーガレットはそんな一言を投げかけた。さらには部屋着を上から順番に脱ぎながら、
「空き箱なんてきっちり片づけなくても、部屋の隅にでも適当に転がしておけばいいでしょ。どうせ誰も盗まないんだから。大ざっぱに見えて几帳面なところあるよね、ヘレンって」
「収納ボックスは収納するから収納ボックスなんでしょ。収納ボックスがあるのに収納しないなんて、意味ないじゃん。収納しない収納ボックスなんて収納ボックスじゃなくてもはや――」
「収納収納うるさい。収納ボックスを使うなじゃなくて、しまうのはあとにしてって言っているだけだから」
「まだ半時間もあるのに。マーガレットはせっかちだなぁ」
「ヘレンはぐずぐずするから、あってないようなものだよ。ていうか、そもそも空き箱なんて、わざわざとっておくほうがおかしいからね」
「お菓子の箱だけに」
「なにそのダジャレ。真夏なのに、寒っ」
「それはマーガレットが今、下着姿だからだよ。早く寝間着に着替えなよ」
「ヘレンもね」
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