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マーガレットは衣装ケースの一番上の引き出しを開け、一番上に収納されたパジャマを取り出す。白地にオレンジ色の花模様が散ったデザイン。さっそく袖を通す。
眠り姫の中には、験担ぎの意味から寝間着選びにかなり時間をかける者もいるが、マーガレットはあまり深く考えずに選ぶようにしている。
顧客が眠り姫を評価する基準は十人十色、顧客の数だけあるといっても過言ではないが、重要なのは眠り姫の容姿や寝相。衣装の影響力は微々たるものなのだから、時間を費やすなんて馬鹿馬鹿しい。ざっと全体を見て、汚れがなくて、ほつれていなくて、破れていなければそれでいい。
衣装選びに関して、マーガレットはそんな冷めた認識だ。
最初からそうだったわけではない。眠り姫としての生活を、修道院での生活を重ねるうちに、自然とそうなっていた。無駄なもの、そうではないものが彼女なりに呑み込んでいき、前者を排除した。煎じ詰めれば、ただそれだけの話。
上下ともに下着姿になったところで、おさめるべきものをようやくおさめたらしく、ヘレンがクローゼットまで来た。
ヘレンは今にも鼻歌を歌い出しそうな横顔を見せながら、衣装ケースの最上段を漁る。今宵彼女が抜擢したのは、クリーム色の無地のパジャマ。
下手くそな鼻歌を歌いながらそれを身に着ける様子を、マーガレットはボタンをとめながら横目で観察する。
デザインは、シンプルだけど女の子らしさがない。色は、もとは真っ白だったのが経年劣化してクリーム色になったように見えなくもない。個人的には、あまり好きじゃないかな。仕事着として積極的に選ぶ理由はなさそうだけど、きっと彼女らしい、独特の判断基準をもとに選んだ一着なのだろうけど。
「マーガレット、どうしたの? ぼくのことじろじろ見ちゃって。ほっぺにごはん粒でもついてる?」
気づかれた。ヘレンにしては勘が鋭い。
「さすがにそれはない。夕食が済んでもう二時間近く経つのに」
「わかった! ごはん粒がついているのはマーガレットの頬でしょ」
「そういう意味不明のボケはやめて。なにも考えずにぱっと口にしたんだろうけど、言われたほうは『どういうことなの?』ってつい考えちゃうから。ちょっと太ったんじゃないかな、と思って見ていたの」
「そう? 夏場は毎年食欲湧くし、実際にそうなのかも」
「夏バテするから、普通は落ちるけどね。ヘレンってなんか、いつの季節も食欲旺盛な印象ある。夏だろうと冬だろうと」
眠り姫の中には、験担ぎの意味から寝間着選びにかなり時間をかける者もいるが、マーガレットはあまり深く考えずに選ぶようにしている。
顧客が眠り姫を評価する基準は十人十色、顧客の数だけあるといっても過言ではないが、重要なのは眠り姫の容姿や寝相。衣装の影響力は微々たるものなのだから、時間を費やすなんて馬鹿馬鹿しい。ざっと全体を見て、汚れがなくて、ほつれていなくて、破れていなければそれでいい。
衣装選びに関して、マーガレットはそんな冷めた認識だ。
最初からそうだったわけではない。眠り姫としての生活を、修道院での生活を重ねるうちに、自然とそうなっていた。無駄なもの、そうではないものが彼女なりに呑み込んでいき、前者を排除した。煎じ詰めれば、ただそれだけの話。
上下ともに下着姿になったところで、おさめるべきものをようやくおさめたらしく、ヘレンがクローゼットまで来た。
ヘレンは今にも鼻歌を歌い出しそうな横顔を見せながら、衣装ケースの最上段を漁る。今宵彼女が抜擢したのは、クリーム色の無地のパジャマ。
下手くそな鼻歌を歌いながらそれを身に着ける様子を、マーガレットはボタンをとめながら横目で観察する。
デザインは、シンプルだけど女の子らしさがない。色は、もとは真っ白だったのが経年劣化してクリーム色になったように見えなくもない。個人的には、あまり好きじゃないかな。仕事着として積極的に選ぶ理由はなさそうだけど、きっと彼女らしい、独特の判断基準をもとに選んだ一着なのだろうけど。
「マーガレット、どうしたの? ぼくのことじろじろ見ちゃって。ほっぺにごはん粒でもついてる?」
気づかれた。ヘレンにしては勘が鋭い。
「さすがにそれはない。夕食が済んでもう二時間近く経つのに」
「わかった! ごはん粒がついているのはマーガレットの頬でしょ」
「そういう意味不明のボケはやめて。なにも考えずにぱっと口にしたんだろうけど、言われたほうは『どういうことなの?』ってつい考えちゃうから。ちょっと太ったんじゃないかな、と思って見ていたの」
「そう? 夏場は毎年食欲湧くし、実際にそうなのかも」
「夏バテするから、普通は落ちるけどね。ヘレンってなんか、いつの季節も食欲旺盛な印象ある。夏だろうと冬だろうと」
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