眠り姫とアイスクリーム

阿波野治

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 鐘の音が鳴り、眠り姫たちはいっせいに眠る態勢に入る。
 二十二名の少女たちの中で、おそらくはマーガレットだけが、いつもとは違う気持ちでブランケットを胸に抱きしめた。
 わたしが内に秘めた思いは、外見に影響を及ぼしただろうか?
 及ぼしたのだとすれば、今、わたしの顔は客にどう見えているのだろう? ベッドルームの側壁はほとんどが鏡。それを見れば自分の顔は確認できるけど、きっと客が見ているのとは違う顔に見えるだろうから、意味がない。

 眠り姫の仕事で叩き出した売上額でシャルロッテを上回って、堂々と言いたいことを言う――。
 シャルロッテの捨てゼリフを思い出した瞬間、この方法しかないと思った。あなたがそう言うのなら、ぜひともあなたに勝って、言いたいことを言ってやろうじゃないか。そう鼻息荒く意気込んだ。

 たとえ勝負に勝てたとしても、シャルロッテの性格を考えれば、彼女から反省と謝罪の言葉を引き出すのは至難の業だろう。「そんなこと言ったっけ?」としらを切られて、うやむやのまま終わる。そんな展開だって充分に考えられる。
 ただ、希望がないわけではない。

 シャルロッテは眠り姫としての高い実力を自覚し、自慢に思っている。
 さらには、マーガレットの成績が低迷している事実を把握してもいる。
 たった一度でも成績を上回り、強者と弱者という力関係を覆せれば、マーガレットに対する態度に大きな変化が生まれるかもしれない。ヘレンに対する加虐行為を抑止することにも繋がるはずだ。
 たった一つの大きな勝利は、必ずやマーガレットは大いなる自信をもたらすだろう。自信を持つことで、あらゆることが好転するだろう。シャルロッテに勝利することによって得られるものは、計り知れない。

 問題は、マーガレットはシャルロッテの成績を上回ったことが一度もない、ということ。
 しかもただ負けるのではなく、毎回大差をつけられている。十倍、ときに二十倍、ひどいときには三十倍――小手先の小細工を弄したくらいではどうにもならない、大きすぎる差を。
 シャルロッテとのあいだに広がる大きすぎる隔たりを、どうすれば埋められるのだろう?

 午後六時半の鐘が鳴るまでのあいだ、マーガレットは絶望感と戦いながら懸命に思案した。考えて、考えて、考えつづけたが、制限時間までにこれというアイディアは思いつかなかった。
 勝負はマーガレットが勝手に決めて、勝手に実行していることだ。延期にするという手もあったが、考えた末に却下した。
 だって、一度戦うと決めたのに逃げてしまったら、その時点で負けたようなものではないか。

 マーガレットの心は熱い。
 なぜこんなにも、シャルロッテに勝つことに執着しているのか、自分でも掴みきれていなかった。
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