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注意するべきか。それとも、見て見ぬふりをするか。
シャルロッテたちはおしゃべりするために図書館に来て、そこにたまたまマーガレットがいただけ。マーガレットの存在を認識した瞬間の彼女たちの反応を見れば、きっとそれが正しい。だから黙っていれば、嫌な言葉をかけられたりちょっかいをかけられたりすることはないだろう。そもそもマーガレットは、これ以上この場所にとどまる理由がないのだから、この場から去ればいい。
しかし、マナー違反。
心なしか、話し声がだんだん大きくなっている。なるべく声を落とすという心がけが働いているのかは、怪しい。彼女たちのテーブルの上には何冊かの本が置かれているが、ページが開かれているものは一冊もない。
「ねえ、みんな」
マーガレット口腔の唾を飲み込み、呼びかけた。
四人はいっせいにしゃべるのをやめ、発言者を振り向いた。全員、顔から笑みが消えている。
マーガレットは喉がふさがったような感覚を覚えたが、覚悟は揺らがない。言葉を絞り出す。
「わかっていると思うけど、ここは基本しゃべるのは禁止だから。もうちょっと声を落とすか、外でしゃべるかして」
「はあ? そんなささいなことに目くじら立てないでよ。ちょっと声が大きくなっただけじゃない。別にわざとやってるわけじゃないんだから、それくらい大目に見てよね」
すかさずシャルロッテが反論してきた。声には不快感が色濃くにじんでいるが、マーガレットを見下す色も混じっているため、どことなく優しげな声音になっている。それが不気味で、四人ぶんの冷ややかな眼差しを注がれている重圧もあいまって、また喉が塞がりそうになる。
それでも、気力を奮い立たせて言葉をぶつける。
「嘘はやめて。シャルロッテ、あなた、図書室に入ってきてからずっと大声でしゃべっていたよね。静かに過ごすつもり、最初からなかったでしょ。話がしたいだけなら、出て行って。あなたたち、はっきり言ってじゃまだから」
沈黙。今までに味わったことがない、強い緊張感。マーガレットは喉を鳴らさないように唾を呑みこみ、言葉を待ち受ける。
四人はおもむろに顔を見合わせ、にやけ笑いを浮かべた。その顔をいっせいにマーガレットに向ける。異様な迫力に、思わず上体を軽く引いてしまった。代表者としてシャルロッテが発言する。
「用がないなら出て行け? それ、あんたが言う権利あるの? 閉じた本をテーブルに置いて、ぼーっとしてるだけじゃない」
「それは……」
「人に文句つける元気があるなら、お前が率先して出て行けよ。ていうか、マーガレットの分際で偉そうな口をきくな。うざいから、さっさと消えて」
シャルロッテは得意げな表情で仲間たちの顔を順番に見る。三人は笑い声と目つきで彼女の功績を讃えた。
シャルロッテたちはおしゃべりするために図書館に来て、そこにたまたまマーガレットがいただけ。マーガレットの存在を認識した瞬間の彼女たちの反応を見れば、きっとそれが正しい。だから黙っていれば、嫌な言葉をかけられたりちょっかいをかけられたりすることはないだろう。そもそもマーガレットは、これ以上この場所にとどまる理由がないのだから、この場から去ればいい。
しかし、マナー違反。
心なしか、話し声がだんだん大きくなっている。なるべく声を落とすという心がけが働いているのかは、怪しい。彼女たちのテーブルの上には何冊かの本が置かれているが、ページが開かれているものは一冊もない。
「ねえ、みんな」
マーガレット口腔の唾を飲み込み、呼びかけた。
四人はいっせいにしゃべるのをやめ、発言者を振り向いた。全員、顔から笑みが消えている。
マーガレットは喉がふさがったような感覚を覚えたが、覚悟は揺らがない。言葉を絞り出す。
「わかっていると思うけど、ここは基本しゃべるのは禁止だから。もうちょっと声を落とすか、外でしゃべるかして」
「はあ? そんなささいなことに目くじら立てないでよ。ちょっと声が大きくなっただけじゃない。別にわざとやってるわけじゃないんだから、それくらい大目に見てよね」
すかさずシャルロッテが反論してきた。声には不快感が色濃くにじんでいるが、マーガレットを見下す色も混じっているため、どことなく優しげな声音になっている。それが不気味で、四人ぶんの冷ややかな眼差しを注がれている重圧もあいまって、また喉が塞がりそうになる。
それでも、気力を奮い立たせて言葉をぶつける。
「嘘はやめて。シャルロッテ、あなた、図書室に入ってきてからずっと大声でしゃべっていたよね。静かに過ごすつもり、最初からなかったでしょ。話がしたいだけなら、出て行って。あなたたち、はっきり言ってじゃまだから」
沈黙。今までに味わったことがない、強い緊張感。マーガレットは喉を鳴らさないように唾を呑みこみ、言葉を待ち受ける。
四人はおもむろに顔を見合わせ、にやけ笑いを浮かべた。その顔をいっせいにマーガレットに向ける。異様な迫力に、思わず上体を軽く引いてしまった。代表者としてシャルロッテが発言する。
「用がないなら出て行け? それ、あんたが言う権利あるの? 閉じた本をテーブルに置いて、ぼーっとしてるだけじゃない」
「それは……」
「人に文句つける元気があるなら、お前が率先して出て行けよ。ていうか、マーガレットの分際で偉そうな口をきくな。うざいから、さっさと消えて」
シャルロッテは得意げな表情で仲間たちの顔を順番に見る。三人は笑い声と目つきで彼女の功績を讃えた。
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