眠り姫とアイスクリーム

阿波野治

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 庭掃除ほど、季節によって好感度が変動する仕事はC修道院にはない。
 春と秋は心が弾む。外に出て体を動かす。ただそれだけで、ちょっとしたご褒美になる。浮かれるあまり、日当たりのいいベンチでおしゃべりをしているところをイザベラ院長に見つかったとしても、他の季節よりも軽い叱責だけで赦される。厳格な院長でさえも、気候の影響と無縁ではいられないのだ。

 一方で、冬は地獄だ。
 体を動かしても、思ったほど体温は上昇してくれない。落葉樹の木の葉は、掃いても掃いても無限に落ちてくる。せっかく集めても、一度でも強い風が吹けばたちまちめちゃくちゃだ。その悲劇を未然に防ぐには、掃き集めた落ち葉をまめにごみ袋におさめればいいだけなのだが、そうするのはなぜかひどく億劫に感じてしまう。一度に入れるのでも何回かにこまかくわけて入れるのでも、入れる総量は変わらないのに。

 正反対の季節である夏も、過酷という意味では同じだ。
 まず当たり前だが、暑い。ただ立っているだけでも眩暈がしてくるし、日陰に逃げこんでも和らいだ実感が湧かない。
 作業自体もかなりきつい。夏場は草刈り鎌を使っての雑草の除去がメインだが、植物の勢力は一年中で最大の季節。庭の広さもあって、ただ刈りとるだけでも大変だし、虫が出るのも嫌だ。生命力が強いから短期間ですぐに元どおりになる。そうすると一からやり直さなければいけない。

 八月に入って間もない今日も、笑えない冗談のように日射しが厳しい。
 一歩外に出た瞬間、今日の掃除時間はちょっとした試練になるとマーガレットは予感した。本日庭掃除を担当する眠り姫で、愚痴らなかったのはヘレンくらいのものだろう。

 愚痴った少女たちの中には、シャルロッテも含まれている。
「院長、あたしたちを熱中症で殺すつもり? 一番偉い人間なら、率先して手本を見せろって話だよね。ていうか、院長が一人でやればいいじゃない? どうせいっつもクーラーがきいた院長室でパソコンいじってるだけなのに」
 作業範囲が広く、なおかつ肉体労働ということで、草刈りに動員される眠り姫たちの数は多い。マーガレットとしては、シャルロッテの注意と関心が自分やヘレンに向かないように祈るばかりだ。

 総勢十名の眠り姫たちは、仲のいい者同士で寄りかたまり、めいめいが目星をつけた領域の刈りとり作業にはげんでいる。

「黄緑色のやつが新しく生えてきた草だよね。ここらへんなんか、二週間前だったかな? 徹底的にやった記憶があるけど、もうこんなに大きくなってる。生命力すごいよねー、雑草って」
 修道服が土に汚れるのもいとわずに、胸を地面にべったりとつけて、低い目線から雑草を眺めながらのヘレンの発言だ。
 マーガレットは軍手をはめた手を握り拳にして額を拭う。返事はしない。暑すぎて、そうするだけの気力もないから。

 ヘレンは炎暑にも負けず口数が多い。手もまずまず動いているが、会話に気をとられて作業がおろそかになる時間も決して短くない。草むしりに限らず、すべての作業に共通する彼女の悪癖だ。
 一方のマーガレットの出だしは、低調。顔の汗を拭う回数のほうが、鎌を振るう回数よりも多いくらいだ。
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