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何日も前からそうすると決めていたような迷いのない足取りで、女子トイレ内の個室に入った。ドアに鍵がかけられ、突き飛ばされるように便座に座らされる。顔を上げた瞬間、拳が顎にヒットし、反射的に両手でその部位を押さえた。殴打の嵐が再び吹き荒び始めた。
いつまでこんな目に遭わなければならないの? 目頭がにわかに熱くなる。
しかし、泣けなかった。怖いし、痛いし、苦しいのに、落涙現象は追随しない。あたかも、終わりの見えない暴力を耐え抜くためには、無駄な行為にエネルギーを費やしている余裕などないと、肉体に苦言を呈されたかのようだ。
二度目の嵐がやんだのは、多木さんの体力が限界に達したからだった。拳が撃ち込まれるペースが次第に鈍化し、一発一発の威力も下降線を辿っていたので、それが原因だと察しがついた。
荒い呼吸音だけが個室内に聞こえている。恐る恐る見上げた顔は、相も変わらず怒りに染まっている。しかし、どういうわけか、怖いとは思わなかった。
いきなり、髪の毛を鷲掴みにされた。六十度の角度に顔を上向かせて固定し、自らの顔を近づける。漂った汗の香りの出所は、わたしと多木さん、どちらの体なのだろう。
多木さんはわたしになにか言おうとしているらしい。しかし、唇が僅かに動くのみで、声が伴わない。人を傷つけるというのは、それほどまでに体力を消費するものなのだろうか?
その考えが間違っていると思い知るには、多木さんの発言を待たなければならなかった。
「蜂須賀、よく聞け。あたしは強姦された」
瞬時には言葉の意味が飲み込めなかった。
ごうかん? ゴウカン?
……強姦?
「金曜日の夕方だよ。学校から帰っている途中で、複数の男に。空き家っていうか、廃屋っていうか、とにかく人気のない建物の中に連れ込まれて、そこでやられた。帰るのが遅くなったから、早く帰りたくて、いつもは通らない道を通ったんだよ。近道っていっても、せいぜい一・二分縮まるだけだし、そもそも帰ったとしても、別にこれといってしたいことも、するべきこともない。それでも家路を急ぐことって、あるよな。分かるだろう? なんとなくそういう気分になるときが」
感情の高ぶりに邪魔をされたかのように、言葉が途切れる。髪の毛を握りしめる力がぐっと強まり、語が継がれる。
「分かってるんだろう、蜂須賀。お前が、お前ら四人が、クソくだらない馬鹿話をいつまで経ってもやめないから、日直だったあたしはなかなか帰れなかった。そのせいで、あたしはあんな目に遭ったんだ」
いつまでこんな目に遭わなければならないの? 目頭がにわかに熱くなる。
しかし、泣けなかった。怖いし、痛いし、苦しいのに、落涙現象は追随しない。あたかも、終わりの見えない暴力を耐え抜くためには、無駄な行為にエネルギーを費やしている余裕などないと、肉体に苦言を呈されたかのようだ。
二度目の嵐がやんだのは、多木さんの体力が限界に達したからだった。拳が撃ち込まれるペースが次第に鈍化し、一発一発の威力も下降線を辿っていたので、それが原因だと察しがついた。
荒い呼吸音だけが個室内に聞こえている。恐る恐る見上げた顔は、相も変わらず怒りに染まっている。しかし、どういうわけか、怖いとは思わなかった。
いきなり、髪の毛を鷲掴みにされた。六十度の角度に顔を上向かせて固定し、自らの顔を近づける。漂った汗の香りの出所は、わたしと多木さん、どちらの体なのだろう。
多木さんはわたしになにか言おうとしているらしい。しかし、唇が僅かに動くのみで、声が伴わない。人を傷つけるというのは、それほどまでに体力を消費するものなのだろうか?
その考えが間違っていると思い知るには、多木さんの発言を待たなければならなかった。
「蜂須賀、よく聞け。あたしは強姦された」
瞬時には言葉の意味が飲み込めなかった。
ごうかん? ゴウカン?
……強姦?
「金曜日の夕方だよ。学校から帰っている途中で、複数の男に。空き家っていうか、廃屋っていうか、とにかく人気のない建物の中に連れ込まれて、そこでやられた。帰るのが遅くなったから、早く帰りたくて、いつもは通らない道を通ったんだよ。近道っていっても、せいぜい一・二分縮まるだけだし、そもそも帰ったとしても、別にこれといってしたいことも、するべきこともない。それでも家路を急ぐことって、あるよな。分かるだろう? なんとなくそういう気分になるときが」
感情の高ぶりに邪魔をされたかのように、言葉が途切れる。髪の毛を握りしめる力がぐっと強まり、語が継がれる。
「分かってるんだろう、蜂須賀。お前が、お前ら四人が、クソくだらない馬鹿話をいつまで経ってもやめないから、日直だったあたしはなかなか帰れなかった。そのせいで、あたしはあんな目に遭ったんだ」
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