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語り尽くしたとき、窓外は夜の帳が下りていた。
わたしたちは互いに、長く、長く、唇を閉ざしていた。
先に口を開いたのは、星羅。
「八つ当たりをして、ごめんね」
わたしの顔を直視しながらではなく、すっかりぬるくなっているだろう、グラスの中の液体に目を落としながらの発言だ。長時間話し続けた疲労感。悲劇を体験した過去は歴とした現実であり、覆しようのないものである事実を噛みしめたことによる虚無感。伝えるべきことを伝えられた安堵。星羅の顔からは、それら三種類の感情が窺えた。
「公園のトイレでの話だよ。秋奈は悪くないのに、暴力を振るって。頬の傷、跡は残っていないみたいだから安心したけど、一歩間違えたら取り返しのつかないことになっていた。自分が傷ついたからって、他人に傷を負わせるなんて、そんなのは人間として――」
「やめて!」
声を大にして声を遮る。大声を出すつもりはなかったのだが、出てしまった。感情に囚われていると自覚したのを境に、ブレーキがきかなくなった。
それでも、ハンドル操作に細心の注意を払いながら、言葉を一つ一つ重ねていく。こちらに向けられた、驚きに包まれた顔を見返しながら。
「星羅がわたしを殴ったのは、被害に遭ったことが原因なんだから、星羅は悪くないよ。絶対に悪くない。だから、星羅は謝らないで」
目頭が熱い。視界は潤いにぼやけ始めた。ハンドルはじきにコントロールがきかなくなるだろう。話を聞く側がしっかりしなくてどうするの、という思いはあったが、構うものか、と開き直る。これだけは、このことだけは、星羅に伝えないと。
「悪いのは星羅じゃなくて、星羅にそんなことをした馬鹿な男たちだよ。星羅はなにも悪くない。なに一つ悪くないよ。だから、もう、自分を責めるのはやめて」
わたしの双眸から涙が溢れ出す。滲む視界の中央で、星羅の顔が見る見る歪んでいき、あっという間に堰が決壊した。
繋ぎ止めなければ。
抱きしめようと体を寄せると、逆に抱きしめられた。そのせいで星羅の胸に顔を押しつける形になったのか、自分から顔を埋めたのかは、感情に呑み込まれたわたしには判断がつかない。服が濡れてしまう、と思ったが、自分から束縛を振りほどこうとは思わない。
わたしたちは泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。
やがて涙は涸れ、悲しみは小康状態になる。
泣きやむまでの時間を費やして達した結論を、わたしは星羅の耳にささやく。
「記憶、絶対に取り出してあげるからね」
わたしたちは互いに、長く、長く、唇を閉ざしていた。
先に口を開いたのは、星羅。
「八つ当たりをして、ごめんね」
わたしの顔を直視しながらではなく、すっかりぬるくなっているだろう、グラスの中の液体に目を落としながらの発言だ。長時間話し続けた疲労感。悲劇を体験した過去は歴とした現実であり、覆しようのないものである事実を噛みしめたことによる虚無感。伝えるべきことを伝えられた安堵。星羅の顔からは、それら三種類の感情が窺えた。
「公園のトイレでの話だよ。秋奈は悪くないのに、暴力を振るって。頬の傷、跡は残っていないみたいだから安心したけど、一歩間違えたら取り返しのつかないことになっていた。自分が傷ついたからって、他人に傷を負わせるなんて、そんなのは人間として――」
「やめて!」
声を大にして声を遮る。大声を出すつもりはなかったのだが、出てしまった。感情に囚われていると自覚したのを境に、ブレーキがきかなくなった。
それでも、ハンドル操作に細心の注意を払いながら、言葉を一つ一つ重ねていく。こちらに向けられた、驚きに包まれた顔を見返しながら。
「星羅がわたしを殴ったのは、被害に遭ったことが原因なんだから、星羅は悪くないよ。絶対に悪くない。だから、星羅は謝らないで」
目頭が熱い。視界は潤いにぼやけ始めた。ハンドルはじきにコントロールがきかなくなるだろう。話を聞く側がしっかりしなくてどうするの、という思いはあったが、構うものか、と開き直る。これだけは、このことだけは、星羅に伝えないと。
「悪いのは星羅じゃなくて、星羅にそんなことをした馬鹿な男たちだよ。星羅はなにも悪くない。なに一つ悪くないよ。だから、もう、自分を責めるのはやめて」
わたしの双眸から涙が溢れ出す。滲む視界の中央で、星羅の顔が見る見る歪んでいき、あっという間に堰が決壊した。
繋ぎ止めなければ。
抱きしめようと体を寄せると、逆に抱きしめられた。そのせいで星羅の胸に顔を押しつける形になったのか、自分から顔を埋めたのかは、感情に呑み込まれたわたしには判断がつかない。服が濡れてしまう、と思ったが、自分から束縛を振りほどこうとは思わない。
わたしたちは泣いた。泣いて、泣いて、泣き続けた。
やがて涙は涸れ、悲しみは小康状態になる。
泣きやむまでの時間を費やして達した結論を、わたしは星羅の耳にささやく。
「記憶、絶対に取り出してあげるからね」
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