記憶士

阿波野治

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 星羅が自分のスマホを確認すると、母親からのメッセージを何件も受信していた。
 今日は体調不良を理由に学校を休んで家にいるということで、ちょっとした用事を頼むつもりで連絡を入れたが、返信がない。寝ているだけだとは思ったが、念のために早めに帰宅した。結果、星羅が外出していることが判明したので、どこへ行ったのか心配しているという。
 状況が不明で心配しているから、すぐに連絡をしてほしい。外出先で体調が悪化するなどして身動きがとれないのであれば、場所を教えてくれたらすぐに迎えに行く。最後のメッセージには以上の旨が綴られていたそうだ。

「知らないうちに、なんか大事になっちゃってるな」
 星羅は苦笑しながら頭をかく。

「体調不良っていっても、そもそも仮病なのに。うーん、返信めんどくさいなぁ」
「面倒くさくてもすぐに送った方がいいよ。お母さんの好意に甘えた方がいい」
「いや、必要なくない? ゆっくり歩いても十分で帰れる距離なのに」
「車で来てもらった方が、早く元気な顔を見てもらえるでしょ」
「顔が見たいなら写真を撮って――って、ごたごた言ってるなら返信した方がいいか」

 星羅はメッセージを送った。内容は見ていないが、文章は短いようだった。
 返信の返信はすぐに届いた。心配無用とのことだが、手が空いているのでそちらに向かう、とのこと。蜂須賀家は界隈では目立つ建物なので、教えられるまでもなく把握しているという。

「やっぱり優しいね、星羅のお母さん。わたしのお母さん、歩くことさえままならないから、迎えに来てくれるのは羨ましいな」
「ああ、だから甘えろって言ったんだ」
「まあね」

 門の前で待っていると、間もなく星羅の母親の車が到着した。
 体調が悪いにもかかわらず出歩いたことを叱られるようだったら、ちゃんと説明して星羅のことを守ろう。そう意気込んでいたのだが、娘に対しても娘の友人に対しても、星羅の母親は柔らかな表情と穏やかな言葉づかいで接した。少し優しすぎるくらいでさえある。前回話をしたときも思ったが、やはりいい人だ。

「秋奈ちゃん、だったよね。星羅、不器用なところもあるけど、心根は優しい子だから、これからも仲よくしてあげてね」
「はい。また今度、遊びに行きます」
「うん、いつでもおいで。お茶とお菓子を用意して待ってるから」
「お母さん、もう行こう。秋奈、家の用事をしなきゃいけないから、話し込んだら迷惑になる」
「ああ、そうね。じゃあ秋奈ちゃん、またね」

 手を振って車に乗り込み、多木親子は帰っていった。
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