切言屋

草太朗と遼②

「いえ、遠慮します。今は食べたい気分ではなくて」
　話し合いに来たのに呑気に食事をしている場合ではない、という、咎めるようなニュアンスが遼の声からは感じられた。しかし、草太朗は朗らかにそれを笑い飛ばす。

「緊張しているからってこと？　だからこそ食べないと。食べるって最高の緊張緩和手段だから。じゃあ、僕が君の分も適当に注文するから、食べるか食べないかは遼くんの好きにして。それなら構わないよね？」
「あ、はい。そういうことであれば」
　遼は少し申し訳なさそうな顔で頷いた。

　注文したのは、一番美味しいものを遼に御馳走したいということで、いちごのショートケーキ。自分用にはボリュームたっぷりのチョコレートパフェに、三種類のベリーのソースで賞味するパンケーキ。飲み物はホットのカフェオレにした。

「むちゃくちゃ食べるんですね。もしかして、昼食がまだなんですか」
　呆気にとられたような顔での遼の言葉に、草太朗は間髪を入れずに頭を振り、

「いや、間食。今日の昼はあまり食べていないんだ。徳島ラーメンの大盛プラス生卵に、半チャーハンと半ギョーザ」
「めちゃくちゃがっつりじゃないですか」
「これでも抑えたほうだよ。マジで空腹なときは、半チャーハンと半ギョーザが半じゃなくなってる。あとは、マーボー豆腐も追加だね。うちが贔屓にしている店はてラーメンは大盛りまでしかないから、並盛を二杯頼みたくなるときがよくあるよ。まあ、三回に一回くらいはそうしているけどね」

　遼は唖然としている。手にしたグラスは宙に浮いたままだ。

「ストレスがかかると、ついつい食べたくなるんだよね。遼くんはさっき『気持ちが落ち着かないと行動せずにはいられない』って言ったけど、それと似たようなものかもしれない。ストイックな方法を選ぶのか、怠惰な方向に流れるのか、人によって方向性が違うのが面白いよね。怠惰な道をばっちり選んでいる僕が言うのもなんだけど」

　注文したスイーツが続々とテーブルに到着する。
　草太朗はソースをたっぷりとつけてパンケーキを頬張り、チョコレートパフェを大きくすくって口に放り込む。遼に申告したとおり空腹だったし、そうでなくても甘いものは別腹。食べれば食べるほど食欲が刺激され、小腹ではなくて大腹が空いていたのではないかと疑ってしまう。

　食べっぷりに触発されたらしく、遼もショートケーキにフォークをつけた。一口食べての「美味しいです」という感想の言葉と、顔に浮かんだ微笑は、偽りではないように草太朗には感じられた。
　しかし、その微笑みは五秒も待たずに消滅してしまう。