切言屋

阿波野治

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草太朗と遼③

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「あの、草太朗さん」
 遼は生クリームが付着したフォークを皿に置き、おずおずと上目づかいに声をかけてきた。パフェを大口で食べ進める草太朗は、軽くあごをしゃくって発言を促す。

「美咲の説得、のどかちゃんに任せたんですよね。……大丈夫なんでしょうか」
「まあ、不安だよね。のどかはまだ子どもだし、無口で、表情にあまり変化がなくて、なにを考えているのかが分かりにくいから」

 そう思うのも無理はないね、というふうにくり返し小さく頷きながらも、草太朗はパフェを食べるのをやめない。口の中が空になったタイミングで、息継ぎでもするかのように言葉を発する、という話しかたで会話を前へ、前へと進める。

「でも、心配は無用だよ。のどかにはよく仕事を手伝ってもらっているけど、あの子がいなかったら説得に成功していなかもって案件、数えきれないくらいあるから。美咲ちゃんは現状しゃべれない状態だから、今日明日中に成果を上げるのは難しいかもしれない。だけど少なくとも、状況を悪化させるような真似はしないと思うよ。少なくともっていうか、絶対に、だね。のどかは慎重派だから」
「聡明そうな子だなっていう印象はありますね。ただ、人を説き伏せる能力という意味ではどうなのかな、という気がして」
「大人しそうに見えてやるときはやる子だよ、のどかは。……なんて言っても、遼くんはのどかが説得するところを実際に見たことがないわけだから、不安な気持ちは変わらないよね。無責任なようだけど、『僕の言うことを信じて』としか今は言えない。でも、君を騙してまでのどかを持ち上げようとしているわけではないから」

 最後の一言だけはスプーンを置き、真剣な眼差しで遼の顔を見つめながら告げた。早い話が、情に訴えた。
 遼は表情を少し緩め、小さく首を縦に振った。草太朗の発言の全てではないが、おおむねであれば納得できたし、納得できない部分に関しても、正しいはずだと信じてみたい。そんな思いが反映されているように見えた。

 遼はのどかの資質を疑っているというよりも、安心に繋がる材料を少しでも手に入れたくて、率直な思いをぶつけたのだろう。
 草太朗は求められる役割を無難にこなしたわけだ。

「話は変わるけど、美咲ちゃんのことを聞かせてくれない? 昨日も話をしてもらったけど、駆け足気味だったから。他愛もないものでもいいから、美咲ちゃんとのあいだでこんな出来事があったよ、みたいなエピソードがあれば詳しく聞かせてよ」
「エピソード、ですか。……そうですね」

 遼は窓外へと視線を逃がして考え込む顔つきを見せたが、すぐに草太朗に注目を戻して話しはじめた。
 大切な人との思い出は他愛ないものであっても、むしろ他愛ないものであるからこそ、輝かしい。休日に美咲と二人で遊んだ思い出、子ども時代の愉快な小事件、不良に絡まれていた美咲を助けた武勇伝――。

 幼なじみについて語れば語るほど、遼の表情からは硬さが抜け、笑みをこぼす回数が増えていく。ショートケーキを食べ進めるフォークも活発に動くようになった。
 多すぎず少なすぎずの頻度で相槌を打つ草太朗は、遼がケーキを半分ほど食べたころにはパフェの器をほとんど空にし、パンケーキを残り一枚まで追い詰めている。
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