切言屋

阿波野治

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草太朗と遼①

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 吉村家を出た直後に遼からメールが届いた。「もう『メリッサ』まで来て、店の中で待っている」とのこと。
 草太朗は「了解」と返信して道を急いだ。

 切言屋助手・のどかが美咲の説得にあたっている時間を、切言屋・草太朗は無駄にするつもりはなかった。
 幼なじみが患者となった今回の件にして遼は、自分もなんらかの役割を受け持ちたいと考えている。これまで彼と交わした会話で、そのことがひしひしと伝わってきた。ただ働きも厭わない、とほのめかしたわけではないが、提案すれば拒まない雰囲気は感じた。
 草太朗としてはこれを利用しない手はない。

『メリッサ』は裏通りにひっそりと建つ、個人経営のこぢんまりとした喫茶店だ。
 狭い店内は明るさを帯びた落ち着きのある静けさに包まれている。
 先客は二組。カウンター席で、口髭をたくわえた中年の店主と話し込んでいる、常連らしい初老の女性。
 そして、奥の二人掛けのボックス席で、熱帯原産の観葉植物の陰になかば隠れるようにして、緊張気味に着席している少年――結城遼。

「遼くん、お待たせ」
 入ってすぐの場所から呼びかけると、遼は弾かれたように顔を上げた。不安に陰っていた顔が、スウィッチのオンとオフを切り替えたように輝きに包まれた。大きすぎた声に振り向いた店主と女性客に微苦笑を向けながら会釈し、遼のもとに直行する。

「早かったね、遼くん。緊張してるみたいだけど」
「ファストフード店とかなら一人でも平気で入れるんですけど、個人経営の店はちょっと抵抗があって」
「分かる、分かる。大人になると、むしろこういう店のほうが好きになるんだけど。単純に慣れの問題なんだろうね」
「……俺、気持ちが落ち着かないときは行動せずにはいられない人間なんです。走らずにはいられないんです。居ても立ってもいられなかったので、早く家を出ました。早く出発することで、待ち合わせ時間が来るまでの落ち着かない気分を解消することはできたんですけど、初めての店に一人でいる落ち着かなさはどうにもならなくて……」

 僕は君ではないから、君の気持ちを百パーセント正確に理解できるわけではないけど、言いたいことはなんとなく分かるよ。
 そんな、捉えようによってはいい加減で無責任な微笑を灯して遼に頷きかけ、草太朗は彼の対面に腰を下ろす。テーブルにはすでにアイスコーヒーのグラスが置かれていて、中身は減っていないようだ。

 草太朗は帰宅したビジネスマンがネクタイを緩めるように無造作に、テーブルの隅に立てかけられたメニューを手にとりながら、
「小腹が空いたからなにか食べようかな。遼くんはどうする? ここのスイーツ、どれもサイズが大きめでお得感があるんだよね。特にショートケーキは甘さがちょうどよくて美味しいよ。注文してみる?」
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