切言屋

阿波野治

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草太朗と遼④

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 遼が語ってくれるエピソードはどれもほほ笑ましく、茶話としては楽しめたが、期待していた新たな事実は残念ながらなかった。
 他者とコミュニケーションをとるのが苦手だが、病的と形容するには程遠く、人よりも多少時間がかかるのだとしても、適応する能力と意欲を併せ持っている。その評価に変わりはない。
 やはり、男性不信の線から攻めてみるべきだろうか?

 ぬるくなったカフェラテをちびちびと飲みながら、草太朗は頭を働かせる。パンケーキとチョコレートパフェはすでに胃の腑に消え、遼が食べているショートケーキも残り三分の一を切っている。

 大好きな幼なじみのことを話し、甘く美味しいケーキを食べることで、遼は元気を取り戻した。これは小さいがたしかな収穫だ。
 新たな事実は明らかにならなかった、という新たな事実を得た。これも収穫といえば収穫だろう。
 ささいとはいえ二つも収穫を得たのだから、今回のところはこれでよしとしよう。
 ――と言いたいところだが、草太朗としてはもう一歩先に進みたい。

「遼くんに一つ頼みたいことがある。君にしかできないことだ」

 ショートケーキを食べ終えたタイミングを狙い澄まして告げる。遼の満面はまたたく間に緊張感に包まれた。
 草太朗は残りわずかだったカフェラテを飲み干し、テーブルに両肘をついて両手を組み、そこにあごをのせる。

「どうして遼くんにしかできないかっていうと、学校のことだからだよ。たしか、遼くんと美咲ちゃんはクラスが別だったっけ。その意味ではやりにくいと思うけど、学校のことは学校の人にしてもらうのが一番だから。なにをしてほしいのかと言うと、美咲ちゃんのクラスの生徒に聞き込みをして、美咲ちゃんに異変がなかったかを確認してほしいんだ」
「聞き込み、ですか」

 草太朗は厳かに首肯してポーズを解除する。

「やりかたは遼くんに任せようと思う。僕からは指示をいっさい出さないから、遼くんがこれだと思う方法で探りを入れて、その結果を報告してほしい。頼めるかな?」

 遼は草太朗から静かに目を逸らす。考え込んでいる顔つきだ。もう少し細かく指示を出したほうがいいか、意思を確認しようかと思ったが、それよりも一足先に遼が目を合わせてきた。

「やってみます。協力させてください」

 その瞳には、見た人を「おっ」と思わせるような輝きが宿っている。
 重要な役割を任せられて、責任感に心が昂っているのだろう。役目を与えられたことで、目的に向かって行動できるのがうれしいのだろう。結城遼はどうやら、プレッシャーを力に変えられるタイプの人間らしい。

「うん、いい返事だ。ありがとう。気負いすぎずにがんばってみて」

 草太朗はスマホで現在時刻を確認し、何十分かぶりにメニューを手にとる。機嫌がいいとなにか食べたくなる。急いで選んで食べれば、あと一品、吉村家に戻るまでに胃の腑に収められそうだ。
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