25 / 113
美咲の想い③
しおりを挟む
だからなのか、美咲は彼女に興味を覚えている。
私からのレスポンスを待っているあいだ、のどかちゃんは読書に集中できていただろうか。
雑念に邪魔をされたのだとすれば、考えたのは私のことだろうか。
私関係だとすれば、どんなことを考えたのだろう。ネガティブなことなのか、ポジティブなことなのか。両親や遼から聞き取りはしたと思うけど、対面は果たしていないし、口もきいていなから、ろくな情報は手に入れてないに違いない。
どんな本を読んでいたのかも気になる。マンガだろうか。小説だろうか。説得役を任せられているくらいだし、きっと頭はいいだろうから、難しい本なのだろう。
まだ中学一年生なのに、どんな事情があって父親の仕事を手伝っているのだろう。
説得能力は、父親と比べてどの程度なのだろう。ノウハウやテクニックはやはり父親から教わったのだろうか。
あの子と話がしてみたい。
あの子となら、まともにしゃべれなくなった今の私でも、もしかすると――。
そんな欲求が湧いた直後、はっと息を呑んで頭を振る。
「だめだめ。だめだよ、美咲。気を許しちゃだめ。この世界は怖いところ。世間は怖いもの。みんな、みんな、悪い人ばかり。心を許したりなんかしたら大変なことになる。この世界に救いなんてないのに、期待なんてしても失望するだけ。希望なんて抱かないほうがまし、抱かないほうがまし……」
言葉を重ねることで、熱を帯びた心は徐々に冷却されていき、やがて晴れて平熱に復した。
美咲は一抹の寂しさを感じながらも、胸を撫で下ろした。そして、心の中でひとり言を連ねる。声は出ていないが、あたかも声を出してしゃべっているかのように唇が動いた。
あの日以来ずっとひきこもって、お母さん以外の人間を徹底的に拒絶してきた私が、誰かの存在に心を踊らされるなんてこと、普通ある? どう考えてもおかしいよ。部外者がコミュニケーションを試みてくるという出来事の珍しさに心を揺さぶられて、それを心の昂りと勘違いしただけ。騙されてはだめ。惑わされてはだめ。あの武元のどかという女の子は、私の救世主なんかじゃない。閉塞したわたしのひきこもり生活に突発的に生じた、予期せぬエラーのようなもの。考えてもみてよ、私。中学一年生の女の子に、私が抱えている大問題を根本的に解決できる力、あると思う? ないでしょう。常識的に考えて、ない。残念だけど、あるわけがないの。魔法が使えるわけじゃあるまいし。その手のマンガとかアニメなんかには詳しくないけど、中一って、魔法少女になるには少し歳をとりすぎているんじゃないかな。中一にしてはきちんとした文章を書く子だって、感心したのはたしかだけど、お父さんが書いた文章をそっくりそのまま書き写しただけかもしれない。そもそも、ちゃんとした文章を書く能力は、立派なことかもしれないけど魔法じゃないよ。魔法なんかじゃない。
わたしを救える人なんて誰もいないんだ。
わたしは一生、不登校で、ひきこもりで、人としゃべれないままなんだ。
きっとそうなんだ……。
私からのレスポンスを待っているあいだ、のどかちゃんは読書に集中できていただろうか。
雑念に邪魔をされたのだとすれば、考えたのは私のことだろうか。
私関係だとすれば、どんなことを考えたのだろう。ネガティブなことなのか、ポジティブなことなのか。両親や遼から聞き取りはしたと思うけど、対面は果たしていないし、口もきいていなから、ろくな情報は手に入れてないに違いない。
どんな本を読んでいたのかも気になる。マンガだろうか。小説だろうか。説得役を任せられているくらいだし、きっと頭はいいだろうから、難しい本なのだろう。
まだ中学一年生なのに、どんな事情があって父親の仕事を手伝っているのだろう。
説得能力は、父親と比べてどの程度なのだろう。ノウハウやテクニックはやはり父親から教わったのだろうか。
あの子と話がしてみたい。
あの子となら、まともにしゃべれなくなった今の私でも、もしかすると――。
そんな欲求が湧いた直後、はっと息を呑んで頭を振る。
「だめだめ。だめだよ、美咲。気を許しちゃだめ。この世界は怖いところ。世間は怖いもの。みんな、みんな、悪い人ばかり。心を許したりなんかしたら大変なことになる。この世界に救いなんてないのに、期待なんてしても失望するだけ。希望なんて抱かないほうがまし、抱かないほうがまし……」
言葉を重ねることで、熱を帯びた心は徐々に冷却されていき、やがて晴れて平熱に復した。
美咲は一抹の寂しさを感じながらも、胸を撫で下ろした。そして、心の中でひとり言を連ねる。声は出ていないが、あたかも声を出してしゃべっているかのように唇が動いた。
あの日以来ずっとひきこもって、お母さん以外の人間を徹底的に拒絶してきた私が、誰かの存在に心を踊らされるなんてこと、普通ある? どう考えてもおかしいよ。部外者がコミュニケーションを試みてくるという出来事の珍しさに心を揺さぶられて、それを心の昂りと勘違いしただけ。騙されてはだめ。惑わされてはだめ。あの武元のどかという女の子は、私の救世主なんかじゃない。閉塞したわたしのひきこもり生活に突発的に生じた、予期せぬエラーのようなもの。考えてもみてよ、私。中学一年生の女の子に、私が抱えている大問題を根本的に解決できる力、あると思う? ないでしょう。常識的に考えて、ない。残念だけど、あるわけがないの。魔法が使えるわけじゃあるまいし。その手のマンガとかアニメなんかには詳しくないけど、中一って、魔法少女になるには少し歳をとりすぎているんじゃないかな。中一にしてはきちんとした文章を書く子だって、感心したのはたしかだけど、お父さんが書いた文章をそっくりそのまま書き写しただけかもしれない。そもそも、ちゃんとした文章を書く能力は、立派なことかもしれないけど魔法じゃないよ。魔法なんかじゃない。
わたしを救える人なんて誰もいないんだ。
わたしは一生、不登校で、ひきこもりで、人としゃべれないままなんだ。
きっとそうなんだ……。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行「婚約破棄ですか? それなら昨日成立しましたよ、ご存知ありませんでしたか?」完結
まほりろ
恋愛
第12回ネット小説大賞コミック部門入賞・コミカライズ企画進行中。
コミカライズ化がスタートしましたらこちらの作品は非公開にします。
「アリシア・フィルタ貴様との婚約を破棄する!」
イエーガー公爵家の令息レイモンド様が言い放った。レイモンド様の腕には男爵家の令嬢ミランダ様がいた。ミランダ様はピンクのふわふわした髪に赤い大きな瞳、小柄な体躯で庇護欲をそそる美少女。
対する私は銀色の髪に紫の瞳、表情が表に出にくく能面姫と呼ばれています。
レイモンド様がミランダ様に惹かれても仕方ありませんね……ですが。
「貴様は俺が心優しく美しいミランダに好意を抱いたことに嫉妬し、ミランダの教科書を破いたり、階段から突き落とすなどの狼藉を……」
「あの、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ!」
レイモンド様が眉間にしわを寄せ私を睨む。
「婚約破棄ですか? 婚約破棄なら昨日成立しましたが、ご存知ありませんでしたか?」
私の言葉にレイモンド様とミランダ様は顔を見合わせ絶句した。
全31話、約43,000文字、完結済み。
他サイトにもアップしています。
小説家になろう、日間ランキング異世界恋愛2位!総合2位!
pixivウィークリーランキング2位に入った作品です。
アルファポリス、恋愛2位、総合2位、HOTランキング2位に入った作品です。
2021/10/23アルファポリス完結ランキング4位に入ってました。ありがとうございます。
「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
魅了の対価
しがついつか
ファンタジー
家庭事情により給金の高い職場を求めて転職したリンリーは、縁あってブラウンロード伯爵家の使用人になった。
彼女は伯爵家の第二子アッシュ・ブラウンロードの侍女を任された。
ブラウンロード伯爵家では、なぜか一家のみならず屋敷で働く使用人達のすべてがアッシュのことを嫌悪していた。
アッシュと顔を合わせてすぐにリンリーも「あ、私コイツ嫌いだわ」と感じたのだが、上級使用人を目指す彼女は私情を挟まずに職務に専念することにした。
淡々と世話をしてくれるリンリーに、アッシュは次第に心を開いていった。
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
『愛が揺れるお嬢さん妻』- かわいいひと - 〇
設楽理沙
ライト文芸
♡~好きになった人はクールビューティーなお医者様~♡
やさしくなくて、そっけなくて。なのに時々やさしくて♡
――――― まただ、胸が締め付けられるような・・
そうか、この気持ちは恋しいってことなんだ ―――――
ヤブ医者で不愛想なアイッは年下のクールビューティー。
絶対仲良くなんてなれないって思っていたのに、
遠く遠く、限りなく遠い人だったのに、
わたしにだけ意地悪で・・なのに、
気がつけば、一番近くにいたYO。
幸せあふれる瞬間・・いつもそばで感じていたい
◇ ◇ ◇ ◇
💛画像はAI生成画像 自作
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる