切言屋

阿波野治

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遼の聞き込み②

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 遼と伊東が初めて二人きりで昼食をともにしたさいに、伊東はクラスメイトの公にされていない個人情報をつまびらかにしてみせ、遼を唖然とさせた。

「駅前で偶然会って、いっしょにマック食ったとき」も、中三のときに自分や遼とクラスメイトで、高校に進学してからも同じクラスになったDという女子生徒の痴情のもつれについて、伊東はチーズバーガーを頬張りながら饒舌に語った。
 二か月ぶりに会った元クラスメイトにする話がそれかよ、と遼は呆れた。実際に苦情を申し立てることもした。しかし伊東は、仕入れている情報を語り尽くすまでしゃべるのをやめなかった。

 はっきり言って、遼が好きなタイプの人間ではない。高校に進学し、別々のクラスになったのを機に親密な付き合いが途絶えたのは、ひとえにそれが要因だ。
 ただ、噂に尾ひれをつけて言いふらしたり、噂の対象となった人間を誹謗中傷したりする男ではない。曲がりなりにも一年間、円満な交友関係が続いたのは、ひとえにそれが要因だ。

「結城、僕になにか用か。えらく辛気臭い顔をしているけど」
「ちょっとリサーチに来ただけ。……美咲のことで、ちょっと」
「ああ、吉村」

 伊東は遼と美咲が幼なじみの関係で、高校生になった今でも親密な付き合いが続いていることを知っている。

「そういえば吉村のやつ、最近学校に来ていないみたいだけど、どうしたんだろう。お前、たまにうちのクラスまで来て、吉村といっしょに下校していたよな」
「そうそう、そのことなんだよ。美咲、先週から急に学校に行かなくなったんだけど、伊東はなにか心当たりない? 俺は全然なくて、クラスが同じ伊東ならなにか知ってるんじゃないかと思ってさ」
「吉村と一番仲がいいのに把握していないのか?」
「残念ながら」

 声が震えそうになる。外国人のように、おどけたように肩を竦めてみせて誤魔化そうかとも思ったが、逆効果になりそうだったのでやめた。

「いつもどおり付き合っている限りでは、異変とか異常とかは特になくて。だから、教室の中でなにかあったのかなって思って、こうしてお前のところまでわざわざ出向いたんだよ。たとえば、クラスメイトとのあいだでなにかトラブルがあったとか」

 伊東は眉根を寄せて小首を傾げた。さらには、少し神経質に頬を何度も指でかく。旧友の情報収集能力に期待していた遼としては、意外だったし、拍子抜けでもある反応だ。

「吉村が関係するトラブルが起きた記憶はないな。……綿貫っていうトラブルメーカーはいるけど」

 伊東は意味深な溜めを作って、声をひそめてその名前を口にした。遼は知らない生徒だ。眼差しで問い質すと、

「うちのクラスの女子。吉村と仲がいいんだよ。フルネームは綿貫弥生。ほら、あそこにいる」
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