31 / 113
遼の聞き込み③
しおりを挟む
伊東が指差した方向には、一脚の机を囲んだ女子生徒の一団がいる。周囲をはばからない大声で談笑している。髪の毛を染め、メイクもしっかりとしているなど、大人びていて垢抜けた容姿の女子ばかりだ。遼はそれら四・五個の情報だけで、綿貫弥生のグループがクラス内でどういうポジションなのかを悟った。
伊東の人差し指は、一人だけ行儀悪く机に胡坐をかいている、髪の毛を明るい茶色に染めた女子生徒へと突きつけられている。この年ごろの少女としては大柄で、カッターシャツのボタンを上から二つ外している。
綿貫弥生の真正面に座ったポニーテールの女子が、なにか冗談を言ったらしく、一同が一斉に笑い声を上げた。
唯一、弥生だけがむっとした表情を浮かべ、ポニーテールの肩を思いきり突いた。隣の女子が咄嗟に体を支えたが、それがなければ椅子ごとひっくり返ってもおかしくなかったくらい、強い力だった。
やられたほうは弥生を一瞬にらんだだけで、それ以上の抗議も反撃もしない。弥生はポニーテールには見向きもせずに、笑顔に戻って会話に復帰している。
「どうした、結城。お気に入りの女でも見つけたか」
「いや、なんていうか……。美咲の友だちになるようなタイプじゃないな、と思ってさ。もっと大人しい女子とつるんでいるんじゃないのか、あいつは」
「そういう女子たちとも仲よくやっているよ。でも、綿貫弥生とも仲がいい。クラスメイトの俺の言うことを疑うのか?」
「いや、信じるよ。美咲は社交的ではないけど誰にでも優しいから、ああいう連中と仲よくやっていたとしても不自然じゃない」
「じゃあ、お前はなにをためらっているんだ?」
「……どう話を切り出せばいいんだ?」
「そんなもん、僕に聞くな」
伊東はそっぽを向いてスマホをいじり始めた。
……仕方ない。ぶつかってみるか。
遼はため息をつき、弥生たちの机に向かう。
「君が綿貫弥生さん?」
話しかけたとたん、断ち切られたように声がやんだ。弥生を含む顔がことごとく、胡散臭そうに遼の顔を見返した。
クラス内でも存在感を発揮している女子のグループに、違うクラスの平凡な男子生徒が話しかけた不可解に、弥生たちのみならず教室にいる全員が遼に注目している。気後れしなかったといえば嘘になるが、彼はすでに踏み出している。
「綿貫さん、吉村美咲と親しいって聞いたけど、それはほんと?」
「そうだけど、だったらなに? なにか文句でも?」
「いや、むしろちょうどよかった。吉村美咲、最近学校来てないよね。それについて知りたくて」
「美咲についていろいろ訊きに来たわけだ」
うなずくと、弥生は遠目だったとしても見てとれるくらいはっきりと眉をひそめた。
伊東の人差し指は、一人だけ行儀悪く机に胡坐をかいている、髪の毛を明るい茶色に染めた女子生徒へと突きつけられている。この年ごろの少女としては大柄で、カッターシャツのボタンを上から二つ外している。
綿貫弥生の真正面に座ったポニーテールの女子が、なにか冗談を言ったらしく、一同が一斉に笑い声を上げた。
唯一、弥生だけがむっとした表情を浮かべ、ポニーテールの肩を思いきり突いた。隣の女子が咄嗟に体を支えたが、それがなければ椅子ごとひっくり返ってもおかしくなかったくらい、強い力だった。
やられたほうは弥生を一瞬にらんだだけで、それ以上の抗議も反撃もしない。弥生はポニーテールには見向きもせずに、笑顔に戻って会話に復帰している。
「どうした、結城。お気に入りの女でも見つけたか」
「いや、なんていうか……。美咲の友だちになるようなタイプじゃないな、と思ってさ。もっと大人しい女子とつるんでいるんじゃないのか、あいつは」
「そういう女子たちとも仲よくやっているよ。でも、綿貫弥生とも仲がいい。クラスメイトの俺の言うことを疑うのか?」
「いや、信じるよ。美咲は社交的ではないけど誰にでも優しいから、ああいう連中と仲よくやっていたとしても不自然じゃない」
「じゃあ、お前はなにをためらっているんだ?」
「……どう話を切り出せばいいんだ?」
「そんなもん、僕に聞くな」
伊東はそっぽを向いてスマホをいじり始めた。
……仕方ない。ぶつかってみるか。
遼はため息をつき、弥生たちの机に向かう。
「君が綿貫弥生さん?」
話しかけたとたん、断ち切られたように声がやんだ。弥生を含む顔がことごとく、胡散臭そうに遼の顔を見返した。
クラス内でも存在感を発揮している女子のグループに、違うクラスの平凡な男子生徒が話しかけた不可解に、弥生たちのみならず教室にいる全員が遼に注目している。気後れしなかったといえば嘘になるが、彼はすでに踏み出している。
「綿貫さん、吉村美咲と親しいって聞いたけど、それはほんと?」
「そうだけど、だったらなに? なにか文句でも?」
「いや、むしろちょうどよかった。吉村美咲、最近学校来てないよね。それについて知りたくて」
「美咲についていろいろ訊きに来たわけだ」
うなずくと、弥生は遠目だったとしても見てとれるくらいはっきりと眉をひそめた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
人質から始まった凡庸で優しい王子の英雄譚
咲良喜玖
ファンタジー
アーリア戦記から抜粋。
帝国歴515年。サナリア歴3年。
サナリア王国は、隣国のガルナズン帝国の使者からの通達により、国家滅亡の危機に陥る。
従属せよ。
これを拒否すれば、戦争である。
追い込まれたサナリアには、超大国との戦いには応じられない。
そこで、サナリアの王アハトは、帝国に従属することを決めるのだが。
当然それだけで交渉が終わるわけがなく、従属した証を示せとの命令が下された。
命令の中身。
それは、二人の王子の内のどちらかを選べとの事だった。
出来たばかりの国を守るため。
サナリア王が下した決断は。
第一王子【フュン・メイダルフィア】を人質として送り出す事だった。
フュンは弟に比べて能力が低く、武芸や勉学が出来ない。
彼の良さをあげるとしたら、ただ人に優しいだけ。
そんな人物では、国を背負うことなんて出来ないだろうと。
王が、帝国の人質として選んだのである。
しかし、この人質がきっかけで、長らく続いているアーリア大陸の戦乱の歴史が変わっていく。
西のイーナミア王国。東のガルナズン帝国。
アーリア大陸の歴史を支える二つの巨大国家を揺るがす。
伝説の英雄が誕生することになるのだ。
偉大なる人質。フュンの物語が今始まる。
他サイトにも書いています。
こちらでは、出来るだけシンプルにしていますので、章分けも簡易にして、解説をしているあとがきもありません。
小説だけを読める形にしています。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
※タイトルはそのうち変更するかもしれません※
※お気に入り登録お願いします!※
OL 万千湖さんのささやかなる野望
菱沼あゆ
キャラ文芸
転職した会社でお茶の淹れ方がうまいから、うちの息子と見合いしないかと上司に言われた白雪万千湖(しらゆき まちこ)。
ところが、見合い当日。
息子が突然、好きな人がいると言い出したと、部長は全然違う人を連れて来た。
「いや~、誰か若いいい男がいないかと、急いで休日出勤してる奴探して引っ張ってきたよ~」
万千湖の前に現れたのは、この人だけは勘弁してください、と思う、隣の部署の愛想の悪い課長、小鳥遊駿佑(たかなし しゅんすけ)だった。
部長の手前、三回くらいデートして断ろう、と画策する二人だったが――。
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
氷弾の魔術師
カタナヅキ
ファンタジー
――上級魔法なんか必要ない、下級魔法一つだけで魔導士を目指す少年の物語――
平民でありながら魔法が扱う才能がある事が判明した少年「コオリ」は魔法学園に入学する事が決まった。彼の国では魔法の適性がある人間は魔法学園に入学する決まりがあり、急遽コオリは魔法学園が存在する王都へ向かう事になった。しかし、王都に辿り着く前に彼は自分と同世代の魔術師と比べて圧倒的に魔力量が少ない事が発覚した。
しかし、魔力が少ないからこそ利点がある事を知ったコオリは決意した。他の者は一日でも早く上級魔法の習得に励む中、コオリは自分が扱える下級魔法だけを極め、一流の魔術師の証である「魔導士」の称号を得る事を誓う。そして他の魔術師は少年が強くなる事で気づかされていく。魔力が少ないというのは欠点とは限らず、むしろ優れた才能になり得る事を――
※旧作「下級魔導士と呼ばれた少年」のリメイクとなりますが、設定と物語の内容が大きく変わります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる