切言屋

阿波野治

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草太朗と弥生⑤

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「それはね、弥生ちゃん、君が美咲ちゃんとは正反対の性格だからだよ。美咲ちゃんの友だちの中で、美咲ちゃんとの共通点がもっとも少ない人間が弥生ちゃんだから、という表現を使ってもいいかもしれないね。
 僕のまどろっこしい話しかたに毅然と抗議したことからも分かるように、君は物怖じせず、包み隠すことなく、自分の言葉を他人にぶつけられる子だ。友人の友人の関係である遼くん相手にも、歯に衣着せぬ物言いをしたという報告も受けている。クラスの中でも目立つグループに属するだけではなく、グループの中心的な存在で、クラスの男子とも気軽に会話をして、違うクラスにも友人がたくさんいる。乱暴を承知で手短にまとめると、明るくて社交的」
「気持ち悪っ。その情報、誰からどうやって仕入れたの?」
「弥生ちゃんのクラスメイトの伊東くん。遼くんは中学生のころまで伊東くんと親しかったらしくて、遼くんに頼んで訊き出してもらったんだ」
「ああ、あいつか。じゃあ、もう一つ質問。あたしは美咲とは性格が正反対って言ったけど、それはあたしもそのとおりだと思う。でも、だからなんなの? なにが切言屋さんの心に引っかかったの?」
「まだ社会経験が浅い高校生くらいの年齢の子って、似た者同士で集まりやすいんだよ。つまり弥生ちゃんの場合だと、明るくて、活動的で、誰であって付き合えるし、誰に対しても堂々と自分の意見を言えるような子が、友だちの中には多いと思うんだけど」

 話をどう繋げてくるのかを警戒するような目つきを見せながらも、弥生は浅くうなずいた。

「もちろん、その傾向が強いというだけで、性格がまるで違う子と仲よくなることもある。そして、それ自体は別に悪いことではないし異常なことでもない。でもね、似た者同士よりも正反対の性格の二人のほうが、軋轢を生みやすいし仲違いをしやすいものだ」
「……なにが言いたいの?」
「ああ、またもったいぶった言いかたになっちゃったね。ようするに、弥生ちゃん。美咲ちゃんとはもっとも似ていない人間である君と、美咲ちゃんとのあいだで、なにかトラブルが起きたんじゃないかって僕は疑っているんだ。
 弥生ちゃん自身も弥生ちゃんの友だちも、トラブルが起きたことは否定したけど、もしかするとそのトラブルは、弥生ちゃんや友だち自身もはっきりとは自覚していない、とても分かりにくいものなのかもしれない。たとえば、そうだね。弥生ちゃんたちはなんでもないことのつもりで言ったことやしたことが、美咲ちゃんにはしっかりとダメージを与えていたとか」
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