切言屋

阿波野治

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弥生の証言④

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 休み時間になるたびに、ひと塊になってくだらない雑談に耽ったり。昼休み時間になると、机を囲んで昼食をとったり。
 友だち同士なら当たり前にするようなことをしながら、あたしたちは友情を深めていった。正反対の性格同士でも、やることはいたって普通なの。毎日ではないけど、いっしょに下校するとかね。

 あたしと仲よくなるにつれて、美咲があたしの友だちと過ごす時間も増えていった。美咲からすればあたしの友だちは、友だちの友だちっていう感覚が強かったと思うんだけど、あいつらとの距離もだんだん縮まってきた。あたし抜きでも楽しそうに話したりとかして。
 だけどあいつらも、そして美咲も、美咲とあたしの関係は特別だっていう認識はあったと思う。

 あたし、あいつらからよく言われていたの。美咲と話すときだけ言葉づかいが優しいって。あいつらのことだから、もう半分以上からかいだよね。弥生、あんたレズだったの? 美咲をそういう目で見てるの? みたいな。
 同性愛者っていう指摘は的外れだけど、美咲にだけは優しい、他の連中とは違う対応をとっているというのは、事実だと思う。ぶっちゃけ自覚はなかったんだけど、本当にそうなのかなって何度も考えているうちに、たしかにそうだなって思うようになって。

 あたしは他の友だち相手みたいに言いたいことを遠慮なく言うけど、美咲は優しく受け止めて優しい言葉を返してくれる。そんな関係にあたしは心地よさを感じていて、その関係が末永く続くことを願っていた。
 ……そう思っていたんだけど、少し違っていたみたい。

 あたしはたぶん、優しくて穏やかな言葉や感情だけが行き交う、温かくて心休まる時間みたいなものを期待していたんだと思う。思ったことを平気で口にする、きついこともためらいなく言ってしまう自分に、ほんとうは嫌気が差していたから。がさつな自分と決別して、美咲みたいに穏やかで優しい女の子になって、優しくて穏やかな会話を交わすひとときを過ごしたい。そんな願望を胸の奥に秘めていたんだと思う。
 でも、その夢が実現するどころか、実現への第一歩を踏み出す前に、あたしたちのあいだで問題が起きた。……起きてしまった。

 表面的にはなんの問題もなく付き合いは続いていたから、美咲が急に学校を休んだときもなんとも思わなかった。休みが二日三日と続いても、季節外れの風邪をひいたのかなって。初日に「今日は学校休むから」っていうメッセージが届いて以降、なんの音沙汰もないのが不安といえば不安だったけど、担任にはちゃんと体調不良って連絡がいっているみたいで、じゃあそういうことなのかなって。慌てるとか焦るとか、そういう感情はほとんどなかった。
 でも、さらに一日、さらにまた一日と学校に来ない日が募るにつれて、胸騒ぎがしはじめた。
 もしかしたら、美咲が何日も学校を休んでいるのは自分のせいじゃないかって、そんな気がしてきたの。
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