切言屋

阿波野治

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弥生の証言⑤

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 だけどあたしは、友だちからさんざん指摘されているように、美咲に対してだけは態度が優しくなる。不登校が始まる前日や前々日を振り返ってみても、美咲にきつい言葉をかけた覚えはない。だから、あたしの発言とか行動とかが、学校に来られなくさせる直接の原因になったわけじゃないんだって結論した。

 次に疑ったのが、あたしの友だち。
 あいつらがなにか酷いことを美咲にしたんじゃないか、言ったんじゃないかって、過去を入念に振り返ってみたんだけど、これかなっていう言動は見つけられなかった。もしそういうことがあった場合、あたしを含む他の誰かが「それは言い過ぎだろ、美咲はあたしたちとは違って繊細なんだから」みたいな返しをするのがお決まりだったんだけど、誰かがそう言った記憶がないんだよね。
 じゃあ、あたしが不在の隙に、美咲になにか馬鹿な真似をしたやつがいるのかと思って、一人一人に対して結構厳しく追及したんだけど、全員潔白みたいだった。

 あいつらはなにもしていない。
 あたしのせいでもない。
 つまり、学校に来ないのはきっと家庭の問題のせいなんだって、あたしは考えた。

 美咲って、結城遼っていう同い年の幼なじみがいて、同じ学校に通っていて、今も親しく付き合っている――なんていう情報でさえも、「誰からも詳しく尋ねられなかったから」っていう理由だけであたしたちに秘密にしていた子でしょ。それと同じで、家族関係とか、とにかくなにか家のことでトラブルが起きているんだけど、話してくれていないからあたしたちはその事実を把握していないだけなんだって。

 家のことで問題が起きているんだったら、あたしたちに言えないのも仕方ない。そもそも言う義務なんてどこにもないしね。休みが長引いているのは心配だけど、解決に時間がかかるような難しい問題ではないはず。せっかく仲よくなれたのに、会えなくなってしまったのは残念だけど、いつか必ず帰ってきてくれるから、そのときが来るのを待とう。
 そんな方針を定めて、あたしたちは美咲抜きの学校生活を送った。

 さびしいし、物足りない感じはしたけど、あたしたちはもともと美咲抜きで円満にやってきたからね。さびしさに襲われることも、違和感みたいなものを覚えることもなく、メンバーが一人欠けた日常が過ぎていった。

 だけど、ふとした瞬間に思ったの。
 もしかすると、「これ」というきっかけがあったわけじゃなくて、今までの積み重ねがボディーブローみたいに美咲の心にダメージを蓄積させていって、それが臨界点を越えた結果、あの子は学校に来られなくなったんじゃないかなって。
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