切言屋

阿波野治

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のどかと遼④

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「のどかちゃんと話していたら、そういえば、美咲の説得に当たっているのは草太朗さんじゃなくてのどかちゃんなんだって気がついて、たまらなく切ない気持ちになったよ。だってさ、俺は美咲の幼なじみだぜ? 草太朗さんは、美咲は男性不信に陥っているっていう説を唱えていて、のどかちゃんはその枠からは外れている。でもさすがに、信頼度は俺のほうが上じゃないかって思うんだよ。のどかちゃんの性格がどうこうじゃなくて、付き合いの長さという意味でね。

 のどかちゃんは美咲と筆談したんだよね。美咲がお母さん以外とはしたがらなかった筆談を。その報告を草太朗さんから聞かされたとき、すごいな、これで問題は解決するかもしれないっていう気持ちとは別に、なんで俺じゃないんだっていう憤りが込み上げてきて。しばらくすると、逆に気分が沈んできた。自覚していないだけで、俺は美咲を傷つけるようなことをしたのかな、なんて疑ったんだけど、いくら考えても心当たりがなくて。俺のせいではないのはたしかだと思う。ひきこもる前日を振り返っても、ちょっとした口論さえも起きなかったし。

 でも、やっぱり、俺が自覚していないだけじゃないか? そう思う気持ちもあるよ。少しはある。

 ただ、仮にそうだったんだとしても、俺の疑問にあいつが答えてくれる可能性は絶望的なわけで。そう考えると、気持ちをどこに持っていったらいいかが分からなくなって。なんていうか、しんどいんだよ、マジで。毎日毎日。出口、見えねぇんだもん。いやもう、ほんとうに……」

 言葉が消え入るように途絶え、遼は項垂れた。若干の演技の気配を感じたが、意気消沈しているのはたしかだと思われる。

 故意か無意識かはともかく、挙動に演技性が含まれているのだから、遼は慰めの言葉を欲しているのだろう。

 さて、どうしよう? のどかは考える。期待に応えようか。それとも、肩透かしを食らわせるか。

「……遼は、自分こそが美咲ともっとも親密な関係にある人間だ、と思っているわけだよね」

 三秒ほどの思案を経て、前者に決めた。

 理由は、そうしたかったから。それ以上でもそれ以下でもない。

 遼の顔が持ち上がったのを確認し、のどかは語を継ぐ。会話の途中で項垂れてしまうほど落ち込みながらも、呼びかけに即座に反応を示す彼の人柄を、胸の辺境で快いと感じながら。

「その遼が自分のせいじゃないと思うんだったら、原因は遼にはない。遼はとにもかくにも、その一点は信じるべき。そしてそれを前提に、思い悩むのとは別の、建設的で生産的な行動をとるべきなんじゃないかな」

 いったん言葉を切ったが、遼はこれというリアクションを示さない。少し意外だと思ったが、黙って聞いてくれていたほうが話しやすい。のどかは語を継いだ。
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