切言屋

阿波野治

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のどかと遼⑥

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「そう簡単に解決する問題じゃないよね。うん、それが当たり前だ。のどかちゃんは『能力がある人間に任せるのも大事』という意味のことを言ったけど、それはもっともだって思うけど――」

 一瞬言い淀んだが、きっぱりと言い切る。

「でも、やっぱり俺は行動したいよ。さっき言ったように、俺は走っていないと心が落ち着かない人間だからね。もちろん、闇雲に動き回るんじゃなくて、なにか効果的な方法を見つけてから行動に移るべきだとは思ってる。のどかちゃんや草太朗さんに迷惑をかけたくないから」

「遼がそうするべきだと思うなら、それでいいと思うけど」

「お墨つきがもらえたね。じゃあ、遠慮なくそうさせてもらおうかな。

 ……実は、世界一美咲と親しい人間は結城遼だっていう考え、俺一人だけの考えで、美咲の認識は違っているかもしれないって、心が揺らいでいたところだったんだ。だから、のどかちゃんに温かい言葉をかけてもらって、救われたよ。言葉に表せないくらいほっとしたし、うれしかった。気持ちが楽になった。今日はのどかちゃんと話ができて、マジでよかったと思ってる。感謝してもしきれないよ。ありがとう」

 わざわざベンチから立ち上がって深々と頭を下げる。

「温かい言葉」という褒め言葉を使われた瞬間、のどかはむずがゆさを感じた。遼は語彙がそう豊かではないから、名状しがたい感覚を言い表す言葉として、「温かい言葉」というありふれた表現を選んだだけだ。そう思うことにする。

「のどかちゃん、マジでありがとう。お礼にアイスを奢ってあげる。ていうか、奢らせて!」

 元気を取り戻したらしい遼は、声を大にしてそう提案した。

 すでにジュースを飲んでいるのを理由に、のどかは好意を辞退した。遼はそれを遠慮していると解釈したらしく、二人のあいだで不毛なやりとりが交わされた。けっきょく、遼一人だけがアイスを食べることになった。

 断れられる形にはなったが、彼の顔には吹っ切れたような表情が浮かんでいて、声も上機嫌そうだ。別れのあいさつを交わし、のどかはベンチから遠ざかっていく。

 自分の体より大きなゴールデンレトリーバーを散歩させる若い女性。ジョギングに勤しむランニングウェア姿の中年男性。にこやかに談笑しながらウォーキングする老夫婦。

 夕暮れ時の遊歩道を行き交う人の数は多い。本来は人口密度が高いのが嫌いなのどかも、今日は眉根を寄せない。『サンクチュアリ』が入った紙袋を手に歩く彼女は、完全に周囲に溶け込んでいる。

 遼のためにも、わたしもできることをやらないと。
 そんな思いが胸に芽生えていた。
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