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クロノスケ①
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西の空には茜色がにじんでさえいない早い時間帯だったが、草太朗は自宅まで送ると弥生に申し出た。
彼女は二つ返事で申し出に同意した。二人は肩を並べて歩きはじめた。
溜め込んでいた思いを洗いざらい打ち明け、小腹を満たした弥生は、饒舌だ。話題は学校で起きたちょっとした事件など、他愛もないが、面白おかしく語ろう、話を盛り上げようという意識をもって語るため、草太朗も気分よく受け答えできた。
綿貫家に着くまで楽しくおしゃべりをして、「美咲になにかあったら連絡するかもしれないから」と伝え、連絡先を交換し、解散。
思い描いていたそんな未来は、思いがけない形で打ち砕かれることとなる。
「あ、お墓だ」
弥生がとある民家の門前で足を止めたかと思うと、そうつぶやいた。視線は、開いた門扉越しに見える庭へと注がれている。門柱の表札に刻まれているのは「本田」の二字。
草太朗は弥生の隣に立って庭を覗き込む。狭い空間の端でも中央でもない中途半端な地点に、握り拳よりも一回り大きい灰色の石が置かれている。その表面につづられた黒い線は「クロノスケの墓」と読める。
「ペットの墓っぽいね。クロノスケ――黒い毛のネコかイヌかな」
「ネコだよ」
草太朗の何気ないつぶやきに、弥生は言下にそう答えた。
「クロネコ。そんなに大きくはなかったけど、子猫ほど小さくもなくて。クロノスケっていう名前なのは初めて知ったけど」
「弥生ちゃん、知ってるんだ?」
「知ってるよ。美咲がよく遊ぶネコだって話してくれたことがあって、あたしも何回か見たことがある。警戒心が強くて、あたしは触らせてくれるどころか近づくことさえ難しくて。たしか病気だっていう話だったけど、見た限り元気そうだった。人間相手には弱みを見せないようにしていたのかも、だけど」
その発言を聞いて、今いる道が、美咲が通う高校と美咲の自宅を繋ぐ道だと気がつく。
「弥生ちゃん、確認だけど、その情報は事実ということでいいんだね?」
「嘘をついてもあたしになんの得もないですよ。どうかしたんですか?」
「死んじゃったネコ――クロノスケの件、ちょっとこの家の人に訊いてみるよ。美咲ちゃんに関係していることだから」
「たしかに関係しているといえばしてるけど、ただのネコだよ? 美咲の問題とは無関係だと思うけど」
「僕もそう思う。でも、万が一ということもあるから」
草太朗の表情は知らず知らずのうちに引き締まっていたのだろう。彼の顔を見ながらしゃべる弥生の顔も、次第に緊張感を帯びてきた。
彼女は二つ返事で申し出に同意した。二人は肩を並べて歩きはじめた。
溜め込んでいた思いを洗いざらい打ち明け、小腹を満たした弥生は、饒舌だ。話題は学校で起きたちょっとした事件など、他愛もないが、面白おかしく語ろう、話を盛り上げようという意識をもって語るため、草太朗も気分よく受け答えできた。
綿貫家に着くまで楽しくおしゃべりをして、「美咲になにかあったら連絡するかもしれないから」と伝え、連絡先を交換し、解散。
思い描いていたそんな未来は、思いがけない形で打ち砕かれることとなる。
「あ、お墓だ」
弥生がとある民家の門前で足を止めたかと思うと、そうつぶやいた。視線は、開いた門扉越しに見える庭へと注がれている。門柱の表札に刻まれているのは「本田」の二字。
草太朗は弥生の隣に立って庭を覗き込む。狭い空間の端でも中央でもない中途半端な地点に、握り拳よりも一回り大きい灰色の石が置かれている。その表面につづられた黒い線は「クロノスケの墓」と読める。
「ペットの墓っぽいね。クロノスケ――黒い毛のネコかイヌかな」
「ネコだよ」
草太朗の何気ないつぶやきに、弥生は言下にそう答えた。
「クロネコ。そんなに大きくはなかったけど、子猫ほど小さくもなくて。クロノスケっていう名前なのは初めて知ったけど」
「弥生ちゃん、知ってるんだ?」
「知ってるよ。美咲がよく遊ぶネコだって話してくれたことがあって、あたしも何回か見たことがある。警戒心が強くて、あたしは触らせてくれるどころか近づくことさえ難しくて。たしか病気だっていう話だったけど、見た限り元気そうだった。人間相手には弱みを見せないようにしていたのかも、だけど」
その発言を聞いて、今いる道が、美咲が通う高校と美咲の自宅を繋ぐ道だと気がつく。
「弥生ちゃん、確認だけど、その情報は事実ということでいいんだね?」
「嘘をついてもあたしになんの得もないですよ。どうかしたんですか?」
「死んじゃったネコ――クロノスケの件、ちょっとこの家の人に訊いてみるよ。美咲ちゃんに関係していることだから」
「たしかに関係しているといえばしてるけど、ただのネコだよ? 美咲の問題とは無関係だと思うけど」
「僕もそう思う。でも、万が一ということもあるから」
草太朗の表情は知らず知らずのうちに引き締まっていたのだろう。彼の顔を見ながらしゃべる弥生の顔も、次第に緊張感を帯びてきた。
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