切言屋

阿波野治

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クロノスケ②

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「あたしもいっしょで平気かな? クロノスケのことは、今日みたいに門の外から眺めただけで、家の人と交流があったわけじゃないけど」
「だったら、僕一人のほうがいいね。僕たちの関係について訊かれたら、説明がちょっと面倒だから」
「たしかに。じゃあ、ここでお別れだね」

 連絡先を速やかに交換し、弥生は去っていった。
 草太朗は玄関へと進んでインターフォンの呼び出しボタンを押す。二十秒ほど待つと中年女性の声が応答した。

「突然の訪問、すみません。庭に石が置いてあって、『クロノスケの墓』と書いてあるのを見たのですが。もしかして、本田さんのお宅で飼っていたクロネコのお墓でしょうか」
「はい、そうです。クロノスケは、ついこの前までうちで飼っていたネコです」

 声に警戒心が漲っている。見ず知らずの中年男が、いきなりペットの墓のことを尋ねてきたのだから当然だ。

「実は、僕の娘がクロノスケとよく遊んでいたんですけど、最近姿を見かけなくなったのでさびしがっていました。今日は僕が一人でたまたま前を通りかかって、そういえばクロノスケはどうしたのかなと思って、庭を覗いてみると墓らしきものがあったので、家のかたにお尋ねしたという経緯なんです」
「そうだったんですか。それはそれは……」
「若いネコで、元気そうだったと娘は言っていましたが、亡くなってしまったんですね」
「はい。とても、とても、不幸な死でした。ところで、娘さんはおいくつですか?」
「今年で中一です。もう死の概念は理解している年齢ですし、クロノスケが亡くなったこと、悲しむとは思いますがきちんと伝えようと思っています」
「そうですか。私には小三の息子がいて、その子が熱心にクロノスケをかわいがっていたんですけど、死んでからだいぶ経つのにいまだに立ち直れていなくて。とてもかわいがっていたのと、死が突然だったのと、身近にいる大切な存在の死を経験したのは初めてなのと。不幸が重なった結果とはいえ、親としてはやはり気がかりで」
「『だいぶ経つ』とおっしゃいましたが、具体的に何日前に亡くなったんですか?」

 第六感めいたものが働いて、そんな質問をしていた。案の定、本田は怪訝そうに押し黙ったが、「娘」への報告に必要だから尋ねたと解釈したらしく、回答を口にした。

「日曜日です。今日は土曜日だから――十三日。十三日前の昼前ですね、クロノスケの亡骸を発見したのは。家族三人で買い物に行った帰りに、家のすぐ前の道で倒れているのを見つけて、すぐに今の場所に埋葬しました」
「十三日前――昼前には埋葬を完了――」

 ひとり言はそこで途切れる。草太朗の中で繋がるものがあったからこそ、そうなった。

「質問ばかりで申し訳ないですが、最後に一つだけ。クロノスケの死因は、ずばりなんだったんですか?」
「実は、クロノスケは難しい病気にかかっていて――」
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