切言屋

美咲の言葉①

　弥生ちゃんと仲よくなったきっかけは、まったく覚えていない。私のクラスは席替えがないから、出席番号が前後している私たちは、席がずっと前と後ろのまま。だからたぶん、これというはっきりしたきっかけはなくて、席が近いからこその小さな交流が積み重なった結果、なんだと思う。

　熱心だったのは弥生ちゃんのほう。休み時間に、私が机で一人でスマホをいじっていると、話しかけてくるとか。移動教室のときに、気がついたら横に並んで声をかけてくるとか。放課後に「いっしょに帰ろう」って最初に持ちかけたのも弥生ちゃんだった。

　私は消極的な性格で、幼なじみの遼を除けば友だちもあまりいないから、声をかけてくれるのはうれしかったよ。文句なしにうれしかったけど、でも正直、困惑もかなり強かった。

　説明しておくと、弥生ちゃんって目立つタイプの女子なのね。男子とか先生相手でも物怖じせずに発言して、メイクもヘアスタイルもおしゃれでセンスがあって、みたいな。そういう子たちから見て、私みたいな地味で大人しい女子って、魅力的ではないでしょ。付き合ってもなにもメリットがないっていうか、好き好んで親しくなりたいとは思わないと思うの。後ろの席から聞こえてくる会話を聞くともなしに聞いた限りでは、価値観も趣味も、重なるものはなにもなさそうだし。

　私が弥生ちゃんになにか不愉快に感じることをしたのを根に持っていて、まずは話をする機会を増やすところから始めて、充分に親しくなったところで復讐を実行しようと企んでいる――なんて妄想もしたけど、弥生ちゃんはどう考えても、言いたいことがあるならその場で言うタイプ。逆に、弥生ちゃんが私を傷つけるような真似をして、後ろめたさから私と仲よくなろうとしたわけでもない。

　なぜかは分からないけど仲よくしてくれて。最初は警戒心もあったけど、企みを胸に秘めているわけではないと分かったのを機に、わたしはだんだん弥生ちゃんに心を許していって。弥生ちゃんもますます態度が砕けていって。気がついたときには、私と弥生ちゃんは自他ともに認める友だちになっていた。

　弥生ちゃんはさっき触れたように、思ったことは誰に対してでもはっきり言うタイプ。だから、厳しい言葉、傷ついてしまうような言葉が自分に向けられたらどうしよう、嫌だなっていう気持ち、友だちになる前から弥生ちゃんに対して持っていたの。友だちになってからは、仲よくなって遠慮がなくなることで、逆にその危険性が高まるんじゃないかって懸念した。